軍用機が飛び立ってもうすぐ二時間。そろそろ手錠が外れる頃合だ。
部下達は久しぶりのバカンスということもあってか既に酒を飲んでいる。
その騒がしさのせいだろうか少女が身じろいだ。
そうしてゆっくりと少女の瞼が開いてエリスを見上げる。薬効が残っているのかぼんやりとした黒い瞳はあまり焦点が合っていないように見えた。
暫しの間見上げてきていた少女が目を擦ろうと右手を動かし、まだ繋がっている手錠をジッと見つめる。
と、小さな電子音が響いて手錠が外れた。
少女の手首と自分の手首からそれを引き離したが少女の視線が代わりに付いてくる。
気付かないフリをして手錠を脇に放り投げた。
少女は相変わらず自分の膝に頭を預けたまま眠たいのかウトウトとしてしまっている。しかしこのまま眠らせておく訳にもいかない。
「起きてくれ。」
声をかけると閉じかかっていた黒い瞳が此方を見る。
背中を支えて起こしてやれば素直に起き上がった。
常であればあの状況で目を覚ました時点でそれこそ此方が困る程、頭を下げて謝罪するであろうはずの少女の反応が薄い所を見るとやはり睡眠薬の影響だろう。
薬に対してそれなりに耐性を持っている自分でさえ起きた後に暫く思考が纏まらなかったのだ、今の少女にハッキリ意識があるのかさえ怪しい。
「お、起きたっスね〜。頭痛かったりしてないっスか?」
「…平気?」
「…………?」
部下の問い掛けにもゆっくり首を傾げている。
「これはまだ駄目みたいだね。」と苦笑するアレイストに内心で頷いた。
隣りに座る少女の首筋に手を当てる。脈拍も呼吸も安定しているので問題は無いだろう。フェミリアが言ったように薬が効き過ぎているのかもしれない。
そんな事を考えていると隣りから控えめな音が聞こえてきた。
あまり聞き覚えの無い音に視線を向ければ、少女が腹部を両手で軽く押さえている。
「はっはっは!嬢ちゃん腹減ったのか!」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
今のは腹の虫か。随分と可愛らしい音だった。
機内食のサンドウィッチを持ってきてトレイを少女の膝の上に置く。
だが動かない。薬が効きやすいと言っていたがこれは重症だ。
少女にサンドウィッチを持たせてやれば漸くそれを食べ始める。酷く緩慢な動作ではあるものの、きちんと食事を取れる事にホッと胸を撫で下ろす。
エリスもサンドウィッチを一つ食べた。
食事途中で眠らされたので中途半端だったのだ。
肩にかかった重みに視線を落とせば少女が眠ってしまっている。それも食べかけのサンドウィッチを持ったまま。
それを手離させ、口元を拭ってやり、ガーフィルにトレイを片付けさせる。
「なーんかちっちゃい子みたいで可愛いっスね!」
少女の肩に毛布をかけながらタイトが笑う。
ロクに意識のない人間なんて大抵そんなものだろう。
起きた少女にこの十数分間の記憶が残っているのかも定かではない。
残っていたサンドウィッチを口に放り込んでからエリスは少女が寝やすいように、その頭を自身の膝に導いた。Prev Novel top Next