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  26


黒ひげ海賊団の策が全くわからなかった。
私は何かされるでもなく、ただ腕を縛り上げられて吊るされていた。足がなんとか着くおかげで腕への負担は最小限だけれど、そろそろ、腕が辛い。
でもそれ以上はない。
殴られるわけでもなく、拷問されるわけでもなく、黒ひげに頬を鷲掴みにされた以外、何か危害を加えられていない。海兵を殺したいわけではないらしい。
しかし、餌という単語に引っかかる。
私が、餌。
何の餌になるというのか。海軍?
……いや、たった海兵1人のために海軍は動かないだろう。これは、任務失敗の責任だ。

ああ、悔しい。
ここで死ぬことになるのだろうか。
このまま捕らえられて、死んでいくんだろうか。

そんな不安と恐怖から涙が溜まっていく。泣いてはだめ、泣いてはだめと自分の心に言い聞かせてその水分を引っ込めようとするが、どんどんと溜まっていくそれ。
とうとうそれが、溢れる、ときだった。


「ゼハハハハ!!やはり来たか、赤髪ィ!」


黒ひげの嬉々とした声とその言葉に含まれていた”赤髪”という言葉にはっと顔を上げる。そこには確かに、赤髪の、あの人。

「ニナ。」
「…赤、髪」

距離があっても目があった事がハッキリわかった。そこから感じる覇王色の覇気という威圧。なぜ、こんなところに。
ポロリととうとう溢れた私の涙を見て、眉間に深く皺を寄せながら赤髪は私から黒ひげへと視線を移した。

「返してもらうぞ、ティーチ」
「ゼハハハハ……出来るのなら」
「随分余裕だな。俺たちを目の前にして」
「いやァ?嬉しくてな。」
「…嬉しい?」
「あァ。狙った獲物がちゃあんと釣れて、俺ァ嬉しくて堪らねェのさ!!」

その黒ひげの言葉で、 闘いが始まってしまった。
黒ひげの闇が徐々に広がって赤髪をとり囲もうとしている。赤髪は取り乱すこともなく、片腕で剣を構えた。
…これは、チャンスだ。
ゆっくり戦況を眺めている場合じゃない。私も自分で逃げるようにしなければいけない。私の前にはバージェスとラフィットが構えていて、だが赤髪たちが来たおかげで私には背中を向けている。見られていない。
長くぶら下がっていたおかげで、腕に力はほぼ残っていない。だけど、この機会を見逃してはだめと、懸垂のように体を持ち上げる。どうにか、どうにか簪を取れればいい。そしたら自分でチャンスは作れる。そう思い、必死に簪を指で探し引き抜いた。切れて、と願いを込めて放ったそれは、縄に確かに傷をつけた。そこからブチブチと切れた縄。腕が解放されストンっと地面に降り立つ。

「テメェッ!!何してやがる!」
「…ッ!」

が、気づかれた。振りかぶるバージェスの拳からの衝撃に耐えるためぎゅっと目を瞑る。
…衝撃は、こない。
ドオォンと別の場所から衝撃音と黒ひげの慌てる声が聞こえ、恐る恐る目を開くと、さっきまで黒ひげと退治していたはずの赤髪がそこにはいて。

「……あか、」
「ニナ…」

いつの間になんて聞く余地もなく、赤髪は私を捕らえられていた錠と縄をガキンと切る。そして右手1本で強く抱きしめられた私。そして赤髪は、

「逃げるぞ」

そう、笑った。
返事なんてできる気持ちが残っていなくて、意味もよく分からなくて、でも今は、彼に頼るしかなくて。ただ抱きしめられた赤髪の大きな背中にどうにかしがみついた。


「────────シャンブルズ」








『───黒ひげはご丁寧に海楼石の錠までつけてニナを捕らえられている。だから今は俺の能力もニナに届かない。… ニナを縄と錠から解放すりゃァ、俺たちの勝ちだ。あとはアンタたちも含め、俺が能力で移動させる。チャンスは逃さねェ』
『俺たちを囮にしようってわけか』
『… それについてはすまねェと思ってる。俺たち能力者は、黒ひげに迂闊に近づけない。能力を取られたらそこでアウトだ。だから俺たちは能力者じゃないアンタの補佐をする。』
『お前の能力は噂で聞いてる。…いいだろう。ニナのためだ、乗ってやろうじゃねェか』

四皇の赤髪のシャンクスとキャプテンがそんな話をしていたのが数刻前のこと。俺たちは黒ひげ海賊団が追ってくることはないだろうが、”その時”用に身を潜めて様子を伺っていた。
そしてついさっき。
突然の移動に驚いた様子の赤髪たちとキャプテン、そしてニナが赤髪に抱えられて現れた。
駆け寄ると、ニナは俺の顔を見て弱々しく笑っていて、何笑ってんだよって、心臓がぎゅってなった。

どうやら、キャプテンの思惑通り、黒ひげは特に追っては来ないようで、しばらく騒ぎもせずいたが、静かに赤髪の船と並んでポーラタンク号も出航した。

出航前にキャプテンと赤髪がニナを囲みながら何か話していたけれど、俺たちには聞こえなかった。ただその後に赤髪は複雑そうな顔をしながらもニナをキャプテンに託して、キャプテンはニナを抱えて俺たちの元に帰ってきた。だから今ニナはここで寝てる。
キャプテン曰く、特に大きな外傷はないって言ってた。縛られてた所が縄で擦れちゃってるから、そこだけだって。
キャプテンは、ずっとニナの隣に座ってた。
別に、ずっと寝たきりとかじゃない。たった数刻なんだけど、1日2日、それよりももっともっとニナは寝たきりだったんじゃないかって思ってしまうくらいに、キャプテンはずっとニナのそばに居た。何もする訳でもなく、ただニナを見つめて。
顔にはあんまり出ないけど、心配と愛おしさがそこから感じられて、俺たちはなんだか、近づけずにいたんだ。








シリウスの真下にて








それを星は眺めている


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