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  20


両手に花
世の女の人たちから見たら、今の私はそう見えるんだろうと思う。

「あら、ニナちゃん。いいわね〜二人もいい男連れて」
「…あはは」

ほらね。

八百屋のおばさんが「モテモテね」なんてウインクを飛ばしてきたけれど、私としては正直それどころではないのだ。カクさんと打ち解けた後、デートと言われ町に連れ出された私たちの前に現れたのは、当然ルッチさん。目が覚めたんですね、とか、ゆっくり寝れましたか、とか、本当なら言いたいことはあるんだけれど…

「カク、何のつもりだ」
「悪いのうルッチ。わしも、欲しくなった」
「…貴様」

こんな険悪の雰囲気にそんな声をかけられるわけはなく。なんとか二人が戦いだしそうな雰囲気を打ち破って、宥め、三人で町を歩くことになったのだ。白スーツの色男二人に挟まれた私は、なんと無様に見えるだろうか。(とらわれた宇宙人にでも見えるんじゃないかな…)

「のう、ニナ。わしあのカステラ食いたい」
「あ、あれもおいしいんですよね。期間限定の味も最高でした」
「ほほう。今度手に入れておいてくれ」

カクさんは、さっきまであんなに殺気を放っていた人とは思えないくらい、話しやすい。フランクで、温かみすら感じられる。カステラが好物らしく、甘いものも全般よく食べるらしい。おかげでお菓子の話がたくさんできて、私も楽しい。

…けどその分、恐ろしくてたまらないのが、ルッチさんだ。ずうっと私たちを睨みつけていて、もう少しで殺されるのではないかと思ってしまうくらい。

「…ルッチさんも、いりますか?」
「いらん」
「…そうですか」

思い切ってカクさんと買ったカステラを一切れ分けてあげようとしたけれど、見事にばっさり断られてしまった。こんなにおいしいのに…残念。

「ルッチ。ニナがせっかくお前さんのためにカステラを譲ってくれとるんじゃぞ」
「知らん。俺に興味はない」
「じゃあニナ、わしが食う。あーん」

私の手に握られていたカステラが、もう少しでカクさんの口に入ろうという寸前、手首を引っ張られて方向転換させられる。
そしてカステラが半分消えた先は、ルッチさんの口の中。

「…」
「…素直じゃないのう」

もぐもぐ、と無言で咀嚼しながらカクさんと睨み合う。やっぱり食べたかったのかなと思いながらも、顔は「おいしい!」って顔をしているわけでもない。そう悩んでいると、はっとルッチさんが好きなものが思い出された。確かこのお店に、そういうアレンジもあったはずなのだ。

「ルッチさんもおいしいと思うものもあるので!待ってて!」

私はどうしても、ルッチさんにおいしいと言ってほしくて、お店にもう一度戻っていった。






口が、甘ったるい。
よくこんなものをバクバクと食える。

彼女の手からほおばったそれは、俺にとってはやはり甘すぎるものだった。しかし、それをカクに食べられるよりはいいと思ったのだから、仕方ない。
俺が寝こけている間に、一体何があったかは知らんが…ニナを毛嫌いしていたはずのカクが、見事に彼女に絆されていやがった。

…それが、ニナの力なのは俺も自覚しているが。

おかげで、本当なら二人で町を歩けていたはずの今日も、カクと三人でいることになってしまった。そして今、俺にまた別の菓子を食わせる気なのか、店にまた一人入って行ってしまったニナ。それを見送ってから、俺はもう一度カクに問い詰める。

「何のつもりだ」
「…さっきもいったはずじゃ。わしも欲しくなった」
「…俺のものに手を出すつもりか」
「残念だがルッチ、ニナはお前のものではない」
「お前には渡さん」
「望むところじゃ。わしだって渡すつもりはない。」

睨みを効かせながらそんな言い合いをしていると、何もわかっていないニナが店からでてきた。それはそれは、嬉しそうな顔をして。

「ルッチさん!」
「なんだ。」
「これ、食べてみて」

そう意気揚々と差し出されたのは、また、カステラ。
先ほどと何やらパッケージが違うが…。
先ほどの甘ったるさが脳裏をよぎってたじろぐと、後ろでカクが「うまそうじゃのう」とつぶやくものだから、コイツにニナが”俺のために”買ってきたであろうそれを譲りたくはなくて、彼女の手からそれを受け取る。
期待の眼差しを向けられ、気まずい。
ニナのためだと思い、口に運ぶ。

その味、は

「…ブランデー…?」
「!そう!そうなの!ルッチさん、好きでしょ?」

甘さも弱く、むしろブランデーの独特の香りが鼻を通り抜ける。そして、俺の好物を知ったうえでこれを”俺のために”買ってきたという優越感と、俺をキラキラと見つめるニナを見て、カクに思わず目線を流す。にや、と口角を引き上げると、悔しそうに口元を服にうずめる奴がいて、さらに気分が高まった。

「ふ…悪くない」
「!よかった!」

ニコニコと、なんと嬉しそうに笑うやつだ。
俺にこんな笑顔を向けられるのは、コイツしかいないだろうな。そんなことを考えていると、俺への嫉妬でか、ぐいっとニナの手を取り、カクが引っ張っていく。

「ニナ、ルッチだけずるい。俺にもなんか選んで」
「え、え、ちょ、カクさん!」

俺から引き離そうとずんずん進んでいくその姿に、久しぶりに奴の素を見た気がして、優越感とはまた違う気持ちで思わず口元が歪んだ。









自由恋愛風











それも、悪くない


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