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  14


「……ロシナンテさん、大丈夫?」
「…あァ、…とりあえずな」

部屋の入口に額をぶつけ、赤くなったそこをさする。
女の子の部屋にしては物が少ないが、ところどころに置かれたぬいぐるみなんかが、彼女らしいものばかりだ。

ニナは、直属ではないが俺の部下の一人で、…申し訳ないが、海賊で俺の兄であるドフィに気に入られちまっているらしい。
…それに、ローにも。
というか、彼女に気があるという海賊や海軍を挙げたらきりがないのではないか、というぐらいだ。
ニナは、背中の怪我の治療のため休暇をとっている。本人は、「謹慎とも言える」とかなんとか言っているが、麦わらたちのことは…まァ、なんというか。俺からしてみれば、彼女らしい問題だ。

「背中はどうなんだ」
「腫れは引いてきました。動き回りすぎると痛むので…もう少し、かかりそうです」

ベッドで上半身を起こして話しながら、ニコと力なく笑う彼女は、どことなく疲れている。
センゴクさんからちょくちょく連絡を受けていたけれど、だいぶ、海賊にもからまれているようだから…仕方ない。(ローにも「構いすぎるな」と連絡をしたけれど、「まずはドフラミンゴをどうにかしてから言え」と言い返されてしまった。)

俺は、…ニナのことをそういう目では見ていない、と思う。
そりゃあ、小さくてかわいい。
仕事熱心だし、部下にも上司にも信頼されている。
ただ、確かに彼女に多くの男が惹かれる要因があることは事実で、仕事でほぼ本部にいることがない俺は、きっと彼女をあまり知れていないのだろう、と思わされる。
だからこうして、見舞いついでに話にきてみたわけだ。


「ロシナンテさん?」
「あ、いや。あーニナ!菓子、食うか?」
「え!」
「この前言った冬島でさ、おいしい菓子見つけたんだよ!」


菓子の話題を出すだけで、キラキラと輝きだす瞳。
それがなんかおかしくって、心が絆される。
玄関に置いておいたはずだ、と取りに行こうとすると、椅子につまずいてこけた。
いてえ、と思いながら気持ちを立て直して玄関に向かうと、ドアに小指はぶつけるし、肝心の菓子は船に置いて来ちまったことに気付く。

「わ、悪ィニナ!ドジった!!」

ドアからひょこりと顔を出して両手を合わせて謝る。
怒られるもんだと思っている俺は、ぎゅっと目を閉じて許しを請うていたが、怒りどころか、フフフと笑い声が俺に届いたものだから、恐る恐る目を開けて彼女を見た。

「ッフフフ…ロシナンテさんは!相変わらずですね…!」

さっきまで元気がなさそうだったニナが、楽しそうに笑っていたのが俺はどうも嬉しくて、とにかく急いで船へ菓子を取りに行くと彼女に伝えて、船へと走った。







「ど、どうしてそうなったんですか!」

俺のもとに駆け寄ってきたニナが驚愕の声をあげた。
それもそのはず。
船への道中、階段からは落ち、猫のしっぽを踏んで引っかかれ、何故か花屋に水はぶっかけられるし、…ドジなのか、運がないのか、俺自身も分からなくなってくるくらい、ボロボロの俺が返ってきたからだ。

椅子に座れと促され、けがをしたところを心配そうに消毒してくれるニナ。「ここまでくると逆にすごいです、」なんて半分嫌味を言われながら、頬に絆創膏を貼られ…って

「お、オイニナ!お前は寝てなきゃだめだ!」
「えっだ、だってロシナンテさんの方がよっぽど怪我…」
「馬鹿言え!俺は平気だ!いいから寝て…っわ!?」

ボフン、
またドジった、と衝撃に反射的に目が閉じる。
目をそろり、と開けると、目の前には先ほどまで話をしていた彼女。
…状況を整理しよう
彼女こそ寝なくてはならないのに、と慌てた俺は、そのまま足を椅子にひっかけてしまった。そしてそのまま、ニナを、押し倒して、いた。

倒れた先がベッドとはいえ、背中にある程度衝撃を受けてしまったニナは、痛みに耐えるようにぐっと目を閉じている。
やってしまった、と焦る気持ちもあるが、
ぷるぷると小刻みに震える体、
痛みからか、閉じられた目じりに溜まった涙、と
ふ、と目を開いてから状況を理解したのか一気に赤くなる、頬
ばちりと涙が浮かんだ瞳と目が合って、どくり、と心臓が鳴る。

…俺は、ニナのことをそういう目では見ていない、と思う…思う。
……いや、思って、いた。
何とも思わない子の見舞いにくるだろうか?
心は絆されるだろうか?
嬉しそうな、幸せそうな顔に喜ぶだろうか?


赤くなった頬に、俺を見つめるその瞳に、欲情するだろうか?


数分間の沈黙の間に、自分自身の気持ちに勝手に腑に落ちてしまった俺は、「ロシナンテさん」と震えた声で名前を呼ばれ、意識をもう一度不安そうに俺を見上げるニナへと戻した。

「あの、っ」
「…悪い、ニナ」
「い、いえ…だからその、どいていただけると…」
「…いやだといったら?」

「っへ」

俺の返事一つで、表情をコロコロ変えるニナ。
想定外の返答に、瞳をきょろきょろ動かし続ける。
俺の様子がどうも変わったことに焦りながらも、彼女の心臓の鼓動はどんどんと早くなっていることが容易に想像できて。

「ニナ、」
「は…はい…?」
「俺も、お前が欲しくなっちまったよ」
「え!?あ、あの…んッ!」

返事を待たず、涙のたまった目元に唇を寄せると、びくりと体を震わせて俺の胸を押し返そうとしてくる。
…あァ、…かわいいなァ…

「俺は…ドフィほどではないけど、欲が強いから…」

欲しいものは手に入れたくなる
低めの声で囁いてやると、うう、と唸りながら肩をビクビクと跳ねさせる小さな体を抱きしめたくて、唇を奪いたくて、ぐちゃぐちゃにしたい衝動に駆られた。

ドフィもローも、…惚れるわけだ

そんなふうに、妙に納得してしまった俺は、疼く気持ちを押し込めて、一度ニナを抱え上げると、ベッドに寝かせなおす。
顔を両手で隠しながら、林檎みたいに真っ赤な顔でチラチラと俺の様子をうかがってくるニナが、どうも愛おしいと思った。
そんなニナに、にこと笑みを浮かべてやると、少し安心したようにほっと息をつくものだから、甘いやつだと感じる。(もう少し、俺にも、他の連中にも警戒心を持つべきなんだろうな、)

「菓子、置いていくから…あとで食べるといいぞ」
「あ…ありがとう、ございます」
「じゃあ、俺は帰る。そのうちまた、」
「あっ…ろ、ロシナンテさん!」

部屋を出ようとすると、コートの端っこを掴まれ引き留められる。
ん?と振り向くと、まだ頬がほんのり赤い彼女が、少しどもりながら


「怪我、しないでくださいね」


なんて、上目遣い気味にいうもんだから。










再び惑わされた











純粋なその目に


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