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  13


無言。中の無言で、ある。

ふわふわと、やけにゆっくりと船に戻っていくスモーカーさん。葉巻の煙か、彼自身の煙か、もうわからないくらい何度も何度も吐き出されるそれが、機嫌の悪さを感じさせる。私はというと、スモーカーさんの様子にダラダラと冷や汗が止まらなかった。顔を見上げることもできず、ただただ、青い海を見つめていた。

私を抱えている大きな手はがっしりと私の腰から離れることはない。たまに力が強まると、背中にじくじくと激痛が走るがそれどころではなくて。

どうしたらこの状況を打破できるか
必死に思考を巡らせるが、スモーカーさんにある意味”捕まっている”この状況を、私自身にどうすることもできないと、半分諦めてもいるのだった。

スモーカーさんから言葉が発せられることはないまま海軍艦に下りると、たしぎさんが心配した様子で駆け寄ってきた。

「ニナちゃんっ無事だったんですね…!」
「なんもされてねェか!?いや、麦わらたちだし、何かすることはねェと思うけど…」

G-5の面々も心配そうに声をかけてくれる。しかし、私に応える隙は与えられず、スモーカーさんはその間をずんずんと進んで行ってしまう。たしぎさんの制止も聞かず、歩みを進めた先は、きっと彼が普段使っているだろう部屋。放り出された先のソファにぼふん、と体が落ちる。背中に痛みが走ったけれど、どうにか顔に出さないように我慢した。
ようやく見上げた彼の顔は、あまりに怒りに満ちていて、肩を震わせる。


「一端の海軍少佐が、何してやがる」
「…申し訳、ありません」
「テメェの仕事は、海賊と慣れ合うことか?あ"ァ?」

「っ、ちがい、ます」


容赦なし。
ぐっと胸倉をつかみあげられて、葉巻の香りが一層強くなる。眉間に深々と刻まれた皺。浮き出た血管。ビリビリと体に響く、覇気ではなく、威圧。

「俺に入った救援要請…お前が海賊に連れ去られた、というのはあいつらか」
「…違います、…懸賞金1億ベリーの、」
「だろうな。お前がいた島に血だらけの海賊が倒れていた。それは、お前がやったのか」
「……私ではありません。」

喉を圧迫するその力に、少しずつ呼吸が難しくなる。
拷問のように続けられる質問達に、どうにか言葉を発する。私から一切目を離さず睨みつけ続ける赤い瞳に、ひそかにおびえていた。

「…あれは、刀傷だった」
「ロロノア、ゾロです。…未熟ながら、…助けられました」

そう答えると、さらに力を増した彼の腕によって、背中がソファに押し付けられる。ここまでにない、背中の激痛に「っぐ、う」と、とうとう出てしまった呻き声に、スモーカーさんははっとして一度手を離した。
げほ、と何回かせき込むが、呻き声の原因が自身の圧ではないことを察したスモーカーさんは、私の制服の裾を掴み、がばっと上に引き上げてきた。


「〜〜〜っ、スモ…カ、さん」
「…背中か」


ギリギリ、胸まではめくられなかったそれで体にまかれた包帯が露わになる。その包帯の巻かれ方で怪我の場所を特定したスモーカーさんは、私の声など届いていないのか、私の制服を脱がしにかかる。待って待って、と抵抗をすると、動くなと言わんばかりにはだけた服を引っ張られ、ソファに押さえつけられる。


胸は、隠された、けれど。
見事に上半身をほぼ裸にされた私は、背中の痛みと羞恥心で小刻みに震える体を抑え込みながら、スモーカーさんを横目に見上げる。腕から足を抑え込み、私を上から見下ろすスモーカーさんの赤い瞳が、獣のようにギラリと光っていた。

「この怪我と、麦わらたちとの行動を、細かく報告しろ。」
「…は、い」

私は、その情けない姿のまま、先刻あったことをすべて報告した。海賊の人質となり、海に投げ出されたこと。それを偶然にも見ていたロロノア・ゾロに助けられ、さらには、麦わらの一味の船医に治療を受けたこと。その施しを受けた以上、逮捕へと踏み切ることができなかったこと。

正直に、すべて。
スモーカーさんは自分にも、他人にも厳しい人。
こんな報告は彼を呆れさせてしまうことは、わかっている。

「…お前は、甘い。」
「はい…」
「気を許しすぎだ。ローにも、麦わらにも、…俺にも」
「…え…ひぅッ」

がぶり。
と、首に、噛みつかれた痛みが走る。
そのまま、ぬる、と這われる生暖かい感触にびくびくと体を震わせた。抵抗しようにも、腕は押さえられ、足は体重を乗せられていて動かせない。ツツ…と背中をしたが這い下りていき、背中が反りそうになるも、痛みでそれすらうまくいかない。包帯の巻かれていない背中のところどころに、リップ音を立てながらキスを落とされたり、歯を立てられたりされ、スモーカーさんだとわかっていても、背後からの恐怖に負けそうになる。
いろんな感情が押し廻って涙が頬を伝った。


「ニナ…お前は、俺をどうしたいんだ」
「っ、ぇ…」

「…お前がいなくなっただけで…傷つけられるだけで…、ここまで動揺しちまう俺ァ、どうしたらいい」


ボソリとつぶやかれたその言葉。
ちら、と視線を彼に送るってみるが、電気の陰になり、表情が読めなかった。ただ、先ほどまでの威圧がいつの間にか消えていて、心臓が少しだけ落ち着き始める。

「お前の体に傷が残る前に処置を施した麦わらの一味にすら…不本意だが…感謝したいいくらいだ」
「…スモーカー、さん」
「…はァ…」

溜息を一つ落としたかと思うと、私の体を押さえつけていた力が抜かれ、自由になった。それに安心して、ふうと息をついて体を起こすと、今度は優しく抱え上げられた。
背中に触れないようにか、私の体は腕一本で持ち上げられている。その不安定さに彼の肩につかまると、少しだけ、口角が上がった、ように見えた。空いている手で二本の葉巻が口から離され、灰皿にぎゅっと潰される。

「…お前に少し触れられただけで、気持ちが浮かれちまうくらいなんだよ、俺は…」
「すも、」

「いい加減、俺の気持ちに気付け…バカヤロウ。」


そう言って、顔がぐっと近寄ったことに焦る間もなく、唇を奪われた。








嫉妬のしるし








葉巻の匂いに溶けてしまいそう


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