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  12


体に体が巻き付かれるとは、こういうことをいうのだろう。…ただ、普通こんな経験はしないものだけれど。ぐるぐると、もう何周されているのかわからない腕。それは当然、麦わら…ルフィ、のものだ。

「なあーニナ、海賊やろーぜ一緒に〜!」
「馬鹿いってないで、離して」
「いーやーだーー!!」

6個は年が離れたこの男は、なんとも、子どもに見える。大声でわがままをごね続けて、かれこれ数十分は経つ。サンジ、が私の前に紅茶とお菓子を用意してくれたのに、食べれもしない。お菓子。サンジの作ったお菓子。…食べたいのに。

他の船員たちは、そのうち海軍が私を拾いにくるはず、と睨んでなんとも自然の生活に戻っていった。
ある意味、船長に拘束されている私は何もできるはずもなく。…今日は、チョッパーの的確な治療に免じて、おこうとも思う。

「ニナ〜〜〜ニナってば〜〜〜」
「うるさい!耳元で騒がないでっ」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ続けるルフィにそう言いつけると、明らかにしょんぼりとして「だってよ〜〜」と眉を下げる。第一、海兵を勧誘する海賊がいてたまるか。まったく。呆れて溜息をついていると、サンジがキッチンから現れた。

「オイ、クソゴム。ニナさんが俺のおやつを食べられねェだろう」
「サンジのおやつは俺が食べたい〜」
「ガキかテメェは!」

頬をぐにににとサンジに引っ張られるルフィ。
ゴム人間には痛くもかゆくもないのだろうけれど。よく、伸びる。

「ニナさん、どれがいい?俺が食べさせてあげる」
「っは、あ!?い、いらないわ!」
「そんなこといって。ニナさんがお菓子好きなの知ってるぜ。ほら、あーん」
「……っ」

目の前に差し出される、あまりにおいしそうなフィナンシェ。この女好きが作ったもの、という情報だけで確実においしいであろうそれ。
白くて長い指にとらわれて私の口元に運ばれるが、その後ろにいる普段のデレデレはどこにいったのかと疑いたくなるくらいの、微笑みを浮かべている彼に、どうも羞恥心があって。
「おいしいよ?」とニコニコするサンジを睨みつけると、楽しそうに笑いながら「残念」と、それをまたお皿の上に戻そうとするものだから、思わず私は、それにかぶりついた。
金髪から見えている片目が見開かれて、背後からは「あ”―!!」とブーイングの声が聞こえる。

「〜〜〜〜〜っニナ、さん」
「…おいし」
「ずりーぞニナ!おれも食いたい!」

やはり一口口に運んだそれは甘すぎずおいしいもので。ルフィが騒いでいるのを無視して、ぺろ、と唇に残った甘みを舐めとる。プルプルと震えている手に気づいてサンジを見上げると、真っ赤なゆでだこ。


「っ…君って、人は…!」


顔を隠すように彼の顔が手で覆われる。金髪からちら、と見える耳はやはり真っ赤だ。サンジはそのまま、フラフラと足元が不安定のままキッチンへ戻ってしまった。
…なんかあった?

「ニナ、それ、サンジくんには刺激が強いわ」
「え、何が…」
「ふふ、かわいいわね」

どうやらその一部始終を見ていたらしいナミとロビンが、楽しそうな表情で私にそう言ってくるが、何が何だか。(そんなことよりフィナンシェおいしかった。)
じい、とお皿に戻されたフィナンシェを見つめて、次のものを食べるか迷っていると、見張り台からウソップの大きな声がこだました。

「おぉーい!!海軍の船が遠くに見える!」
「ん!来たかっ」

ぎゅるるる、っと音を立てて、私にまかれていた腕がルフィに戻っていく。麦わら帽子をかぶりなおして、船首にぴょんと飛び乗った。「小舟でも貸してくれればもう降りる」とフランキーに言ったけれど、その船が返ってこなそうだからと却下されてしまった。
むむ、と唸りつつ海軍の船がいるであろう方向を見つめると、影が、ふわと見えたような気がした。
それが二人にも見えたのだろうか。ニヤリと笑うゾロと、手の関節をゴキゴキと鳴らすルフィ。二人の顔が、あまりにワクワクしていて、なんて海賊たちだと呆れる。

「ちょっと!ニナをおとなしく返せばいいだけでしょ!」
「俺は、ニナを仲間にするって決めたんだ!!」
「か、勝手なこと言わないで!私は海賊になんて…」
「来るぞ、ルフィ!」
「あァ!!」

私の言葉を遮ったゾロの声とルフィの返事とほぼ同時に、繰り出され、ぶつかる二つのこぶし。
もくもく、と煙を帯びているそれは

「スモーカーさんっ」
「テメェは、世話がやけるッ!!」

紛れもなく、私の上司その人だ。

「ケムリンか!!ニナは、俺たちがもらうぞ!!」
「ふざけんじゃねェ!腐れ海賊共!!」

何度も何度もはじき合うこぶしで起きる、バチバチとした覇気のぶつかる音と衝撃。背中の怪我に響くその振動に耐えながら、スモーカーさんたちの方へ歩み寄ろうとするが、ぐっとゾロに腕を掴まれる。

「離して!」
「お前、うちの船長から逃げられると思わない方がいい」

「ッ」

どこかの副船長にも言われたことがあるそれに、ゾクリと背筋が凍った。鋭く私を射抜く瞳に、びくりと肩を揺らす。それに口角をニヤリと上げて、「俺からもな」と加えるゾロの手から伝わる体温と力強さに、背中の怪我に布を巻くためとはいえ、半分強引に体に触れてきたそれを思い出してしまい顔に熱が集まる。


「ニナ!来い!!!」


そのとき聞こえたスモーカーさんの私を呼ぶ声。伸ばされた手。はっと我に返り、その手を掴むと、先ほどまでがっしりと掴まれていた腕が自由になる。スモーカーさんに引っ張り上げられる前に、離された手の持ち主であるゾロに目線を送ると、柔らかく微笑んでから目を伏せて目線を逸らす。それに見惚れていると、スモーカーさんに抱え上げられた。
顔をちら、と見上げると、すごく、すごくすごく怒っているスモーカーさんがそこにはいて。

「あー!!なんで離しちまうんだよゾロ!!」
「今回は怪我人だろ。奪うならちゃんと奪いにいきゃいい」
「…それもそっか!!」

ゾロとルフィの会話が私たちの耳に届くと、スモーカーさんは更に眉間に皺を寄せた。


「そういうわけだ!ケムリン!!今度は、奪いに行く!!!」
「………上等だ、クソ餓鬼」


明るいルフィの宣戦布告と、それを受け取ったスモーカーさんの声色があまりにも真逆すぎて、私はある意味、ぶるぶると震えた。(私、このあと生きてられるかな)軍艦に戻る間、ずっと無言のスモーカーさんとその圧におびえながら、私はおとなしく担がれていた。









ごめんなさいと云えたなら











どんなに楽だったろうか


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