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  6


どのくらい時間が経ったか。
丁寧な診察を受けてから、事細かくカルテに記録を残すローさんの姿を見つめたり、ちょっとだけ医学書に手を出してみようとしたり。(ローさんに「お前じゃわからねェよ」と釘を刺された)
しかし、不思議と居辛さは感じなかった。
ローさんの真剣な表情とか、部屋の様子とか、ペンを走らせる音とか…

そんなことを考えていると、カタンとペンが机に置かれた。


「…すまねェ。待たせた。」
「いーえ。」

「まァ、健康体だ。飲み屋をやっていただけあって少し腎臓み弱りも感じられるが、問題として挙げるほどではない。あとは…」

できあがったばかりのカルテに目を落としながら、私に説明をするローさんは、妙に色っぽさがあって。
って、なんかさっきからそんなことばっか考えてるな私…


「オイ、ニナ。聞いてんのか」
「あっごめんなさい」

「ったく、…問題はないし、別にかまわねェ。」


パタンとカルテを閉じて本棚に歩みを進めるローさんを目で追う。
すっと差し込まれたそこには、同じようなファイルが数十冊並んでいる。
もしかして、

「クルーのみんなの、?」
「そうだ。俺は医者だからな…。連中に何かあったとき、治療するのも俺だ。だから、ある程度体の情報をもっておかねェと、正しい治療はできねェ」

そっか、なんて感心していると、ふと、一冊だけやけに分厚いカルテがあることに気が付いた。そんなに体が悪い人がいるのか、と心配をしていると、その目線に気が付いたローさんが、フと笑ってそのカルテを取り出した。


「こいつは、クルーのじゃねェよ。」
「え…」
「まァ、最近まで隣のオペ室にいたやつのモンだ。馬鹿みてェにひどい傷と毒の形跡があったもんだから、こんな厚さになっちまってるが…普通の人間ではありえないことだ。気にすんな。」

麦わらのルフィのものだと察するには、十分すぎる情報だった。
今日さっき海賊になったような私が、口を挟めることではなかったので、ふぅん、とだけ返事をした。
もしかしたら、私が察していることもローさんはわかっているのかもしれないけれど。


「そんなことはいい。…本題だが」

ギィ、と椅子に座りなおして、私を見据える。



「どうして、能力者になった」



勧誘を受ける前にも、聞かれたこと。
てっきりもうそのことはあきらめてくれていたと思っていたのに。

「…ひみつっていったでしょう?」
「それが通じる俺じゃあねェよ」
「船長さんには全部話さないとダメ?」
「これで実は海兵でした、なんてことにはなりたくねェんだよ」
「ここまできて、疑われてるの?」

「そう、したくない。これじゃ理由にならないか」


一切私から目を離さなかった。
ローさんは私を、信じようとしてくれている。
なんだか私は、それだけで十分だった。

「…実験で、食べさせられた。それだけよ」
「……実験、だと?」

目の色が変わったのが私にもわかった。
もちろん、悪い意味で。

「私の両親…もう死んだけれど、知り合いに科学者がいたらしくてね。その人に脅されたかなんだかしらないけれど、私を実験台にする他なかったようよ。」
「お前、まさかッ…」


「…”スマイル”って、知ってる?」


「――――ッ」


ガタンと椅子から立ち上がり、真っ青な顔で私を見下ろすローさん。
スマイルが何だか、知っているんだとすぐに理解した。
スマイル…人造悪魔の実と呼ばれる、人の手でつくられてしまったもの。
馬鹿な科学者が、悪魔の実を無理やり作ろうとしている。
その、産物だ。

「ッあれは!!動物系しか作れないという話じゃ…!」
「そうよ。だから、私が食べたのは失敗作。…」

まるで、能力をしっかり持っているようだけれど、違う。
本物の風人間…”カゼカゼの実”には到底及ばない力。
そして何より

「私は、あと5年しか生きられない。そう言われているの」

失敗作を食べてしまった人間の末路ってやつね。
そう、言葉を紡ぐとローさんは頭を抱えて椅子に座り込んだ。
あともう少ししか生きられない命だもの、好きに生きたいと思ってしまった。
だから、この船の誘いにのった。

「だから船長さん。私の命、預けたわ」


二コリとほほ笑むと、ローさんの顔は歪んだ。
悲しみでもなく苦しみでもなく、それは、罪悪感のこもった表情。
それが何を意味するのかは、まだわからないけれど
きっと、話してくれるよね。ローさん。









ひみつのおはなし









クルーのみんなにはないしょ


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