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ぷるぷるぷる
"専用"の電伝虫がなる。たったワンコールだけ。
それを聞いて俺はすぐにベンのもとへ足を運び、船の進路を変更させた。それだけに値する、その電伝虫は俺と"アイツ"を繋げている。
話すことはない。ただ、彼女に危険が迫っている…それを知らせるだけのもんだ。
「いいように使われてねェか」
「いいんだよ。…ニナのためなら、」
「──シャンクスが?」
「おう」
ロシナンテさんに話を聞いて驚いた。
急な出航から3日。
ただただこうやって海に逃げて来たものの、果たしてあの男が簡単に逃がしてくれるものかとずっと心配をしていた。…が、どうやら今回、シャンクスがまた関わってくれているようだ。
また、助けられてしまった。
眩しいくらいの赤髪が脳裏を過ぎる。
「さて、撤収するぞ」
「戻るんですね」
「あァ。結局のところ、1番安全なのはあの島ってことだな」
それはきっとローの判断。…いや、ローとシャンクスの判断なのだろう。私は2人に甘えさせて貰ってばかりだけれど、それが最善だと信じている。
……それにしても、
シャンクスにはこうやって助けて貰っているわりに、あんまり会えていなければお礼もちゃんと出来ていない。今回だって、島に戻るとしても会えるかどうか…
「ニナーーーッ」
会えた。
「……この男は、俺が海兵だと忘れていないか」
「…こういう人なんです、ロシナンテさん」
島に上陸してすぐ、信じられない速さで私に飛びついてきた男の姿を見て、ロシナンテさんはドン引きだ。私だって若干引いてるもん。1人の海兵がいたところでこの人にとってはどうってこともないのか…「久しぶりだな〜」とニコニコしながら擦り寄ってくるシャンクスだけど、とりあえず、重い。
「おい、赤髪。話があるから離れろ」
「話ならこのまま聞けばいいだろう」
「……………」
ロシナンテさんか、珍しくイラついている。
「シャンクス、離れて」
「ツレねェなあ」
「ロシナンテさんが話があるっていってるでしょ」
「ドフラミンゴは追い返した。近づくなと一応釘は刺してあるが、あとはアンタ、兄弟だってんならもう少し管理するんだな、以上」
子どもか、と思うくらい早口めにペラペラと喋ったかと思えばそっぽを向いたシャンクスに、ロシナンテさんはとうとうキレた。ぐいっと首根っこを引っ張って私から強制的に離れさせたのだ。ロシナンテさん大きいから意外にも余裕そう。ぐえ、と四皇とは思えない情けない声をあげたシャンクスは渋々私から離れた。(そういえばベンさんたちは「ざまあみろ」と言いたげな表情で、少し離れたところから私たちを見ている)
咳払いを1度してからロシナンテさんはシャンクスを改めて見下ろして言った。
「………元部下が世話になった。感謝する」
「…」
「…ドフィは…簡単に止められねェ、俺では」
ロシナンテさんはぐ、と拳を握った。「一度暴走したら、俺はもう」と悔しそうな表情を浮かべている。
「アンタのことは別に助けたつもりはない。俺が助けてやりたいのはいつだってニナだ」
「………そうだったな」
シャンクスの言葉に少しだけ表情が緩んだ彼は、そろそろ海軍の船に合流しに戻ると言った。
「海賊にニナを頼むのもどうかと思うが…事情もあるし、ローからもそう言われてるしな」
「ありがとうございました、ロシナンテさん」
「………赤髪と同じだ、俺も」
え、と顔を見上げると、少し屈んでくれていつもより近くにあるロシナンテさんの顔。ふわりと微笑んでから私の頭をやんわりと撫でる。
「ニナのためなら、飛んでくる」
「……ロシ、」
ナンテさん、と続けようと思った矢先、背後からの殺気という名の覇気が飛んでくるのをヒシヒシと感じた。ロシナンテさんももちろん気づいているけれど、そんなのお構い無し、というように頭を撫で続けている。ちら、とロシナンテさんが一瞬目線を背後にやったかと思ったらぶわっと更に覇気が増した。その直後強い力で後ろに体を取られた。
「終わり!終わりだ終わり!」
「餓鬼みたいな奴だな、赤髪」
「うるせェ!」
「…ニナ。またそのうち」
「はいっ」
むぎゅう、と赤髪に押しつぶされそうになりながらロシナンテさんと別れを告げた。「海軍なんかと話すな」とかバカを言っているシャンクスは無視。
また会える日が来るといいな、今回のような件ではなくて…穏やかな日に。
大きくて広い背中眩しげに見送る
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