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ニコニコ…いや、ニヤニヤ?とこちらを見つめる目線。ぐぬ、と何となく息を詰まらせながらアイスティーをちゅう、と吸い上げる。顔に穴が空いてしまいそうだ。暫く我慢はしていたのだけれど、もう触れずにはいられなくて、声をかけた。

「………あの」
「んー?」
「そんなに見つめられても、困るのだけれど」
「困っていいぞ」
「……」

そうだった。話になる相手ではないのだった。

ロシナンテさんが去って早2日、赤髪海賊団は未だこの島に残って、おそらく…様子を見ているのだと思う。私の周辺の出来事を。心配してくれているのは違いないのだけれど…

「いやー最高だ!ニナとこんなに長く過ごせたこと、今までなかったからな!」

そんな余りにどストレートな言葉にむせってしまう。そんな私をよそに、ご機嫌な様子で喉を鳴らしてお酒を流し込むシャンクス。いい飲みっぷりだなァとか、周りのお客さんに言われるものだから、更に調子に乗ってしまうものだから、呆れた。

「ちょっと、あとはお店で出してあげるから。あまんまり飲みすぎないで…」
「んー?心配してくれてんのか?優しいなァ」
「心配は全くしてないけど、周りのお客さんの目があるでしょって言いたいの!」
「周りの目なんか気にしてたら、海賊なんてできねェぞ?」
「私は海賊じゃないものっ…!もう!」

机にかさんで仕方の無い代金を置いて、「ご馳走様でした!」と声を上げてから、シャンクスの右手を引っ張る。
そもそも、なんで2人でふらふらしているかっていうと、シャンクスが痺れを切らして「そろそろ2人っきりにしろ!」などと、意味の分からないことを言い始めたのがきっかけだ。そのお陰で、ベンさんも他のクルーの皆さんも気配を感じないくらい綺麗さっぱり見かけない。船長のワガママを聞きすぎです。

「情熱的だなァ、どこへ俺を連れていくんだ?」
「な、何で貴方はこう、減らず口ばっかり」
「言ったろう。ニナといれて嬉しいんだ」

いつの間にか絡め取られた指が、大きな手に包まれる。片腕しかない彼が、私にその手を預けてしまっていいのか…と思う反面、それだけ私に気を許しているのだろう、とも思う。四皇ともあろう人が。

「〜〜…」
「照れた顔も可愛いな」

甘い言葉がポンポンと降り掛かってくる。もう、こんなハズではないのに!

「そろそろ俺に乗り換えたらどうだ」
「…は」
「あのルーキーから。そうだろ?」

またその話?と店のドアを開けて電気を付けながら言う。「またとはなんだ」と不満げなシャンクスを窓際のベンチに座らせて、水を渡して、私もその隣に腰掛けた。

「しません」
「俺の方が強いのに」
「戦ったことないでしょ?」
「俺の方が渋いぞ」
「かっこいいとは言わないのね」
「俺の方が懸賞金だって高い」
「そりゃ、そうだろうけど」
「俺の方が………」

ちょっと拗ね気味に、ちょっと必死に、私に迫りながらローより優れているはずだろうところを主張し続けるシャンクス。何だかその様子がおかしくって、クスクスと笑いが零れてしまった。

その刹那、ふわりと体が後ろに倒れた


「俺の方が…お前を気持ち良くさせられる」


伏せた目をゆっくり開くと、あまりに真剣な顔をして私を見下ろすシャンクスが居て。けど、なんだろう。前までと違うんだ、私の気持ちが。
ああ、赤い髪がキラキラと月の光に反射して眩しい。私は思わず、垂れた髪を彼の耳にかけてやる。ピクリとそれにシャンクスは反応を示したけれど、私が余りに動じていないことに、悔しげに口をへの字にした。

「…ずるい女だ、本当に」
「そんなつもりないのだけれど」
「俺ばかり好きになる」

私を数秒見つめたあと、シャンクスはため息をひとつついて「理性ぶっ飛ばして、ここで本当に既成事実作るしかねェのかな…」とか、物騒なことをぶつぶつ呟いている。

「……なァ」
「ん?」
「キスくらいは、いいだろう」
「だめ」
「一回」
「だめ」

むぐぐ、と顔がしわくちゃになっている。
その顔が面白すぎて、起き上がりながら笑ってしまう。本当にこの人は、表情がコロコロ変わるのが楽しくて仕方ない。

「………ニナ」

返事をする前に、唇が塞がれた。
分厚い胸板をいくら押し返してもビクともしない。
ぬる、と口内に侵入した彼の舌は、お酒のせいか分からないけれど、とても熱くてこちらが溶けてしまいそうなくらいで。

「、っん、……ァ」
「っ、」
「ンン、っ…!」

かく、と腰が抜けたのを見逃さないかのように、起き上がっていた体はまた組み敷かれてしまう。何度も何度も舌は絡められ、身体は無意識に反応してしまう。ようやく、と思うくらい長い時間続いたそれを現すかのうように、ゆっくり離れた私たちを銀色の糸が繋いでいた。

「っも…、だめって言った…」
「無理だ、ニナ」

理性なんて、俺にはない








月に吠える狼








もう手遅れ

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