×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



  7



とてとてとローさんの隣を歩きながら、彼の様子を伺う。特に会話がたくさん弾む訳でもないし、何のために私は呼ばれたのか、よく分からないまま、水族館へ到着。(さっきはちょっと赤くなってて可愛い感じだったのにな…)と、ちょっとモヤモヤしていると、「取材があってな」とローさんの声がして、驚いた私は間抜けな声をあげてしまった。

「趣味とか、俺の好きなことについてらしくてな」
「雑誌、ですか?」
「あァ、俺は基本的にテレビは嫌いだ」
「どうして?」
「"喋れ"と強要されているようなもんだろ」

はあ、と大きめのため息をつくローさんを見ながら、じゃあこの前のB-studioは相当渋々だったんだろうな、とちょっと同情する。ルフィくんに「出てくれー!」って頼み込まれたんだろうなあ。

「だからここに来たかったんだが、一人で来るのもなと思った」

なるほどと返事をしつつ、それこそルフィくんたちは駄目だったのかと聞いてみると、ローさんは「面倒なことになるのが見えるだろうが」と眉間にシワを寄せた。(ご苦労されている…)それに思わずふふと笑ってしまった。
水族館のチケットは私がお金を払うまもなく購入されてしまって、「学生に払わせる俺じゃねェ」と何とも大人でかっこいいことを言われてしまった。そしてまた私のちょっと前を長い足で歩き初めて、私はなんとかついて行く。私は水族館という場所自体が久しぶりで、どうもテンションが上がってしまい、相手がローさんだと忘れてついついはしゃいでいた。

「ローさん!ペンギンです!かわい〜」
「…そうだな」
「ローさんは、可愛いものが好きなんです?」
「……さァな」

そう素っ気なく答えて「次行くぞ」と歩き出してしまったローさんだけど、絶対好きだ。絶対。だって、顔が緩んでるもん。今のペンギンも、さっきのカワウソも。たくさんのお魚がいる巨大水槽だって、ローさんはずっと見つめていた。さっきルフィくんたちの話をしていた時とは全く違う、表情筋が緩んでる感じ。写真集とか雑誌では見ることが出来ない、ローさんのそんな表情が嬉しくて私もニヤニヤしてしまう。

「変な顔」
「なっ!失礼ですよ!」
「ふ…悪い悪い」

あ。
笑った。

「?……なんだよ」

何だか今日1番の収穫の気分。
ローさんの"優しい"笑顔を見るのは、2回目だ。
そう思って、口角が緩むのを隠しながらついじっとローさんを見つめてしまうと、何見てんだと小突かれた。それなりの強さに、酷いですと睨みつけてみても「全然怖くねェ」とまた笑った。

「……………かっ、」

こいい。
ゴクリと言葉を飲み込んで、代わりに「行きましょ!」と、今度は私が前を歩く。ローさんは怪訝な顔をしていたけれど、気づかれる訳にはいかない。きっと今、本当に変な顔をしているから。
…本当に本当に、かっこよすぎるよ。

そこから、ローさんは隣を歩いてくれるようになった。歩くペースを合わせて私が「ダンゴウオを見たい」と言うと、一緒に見てくれた。説明文を読んだり、魚の顔を見て笑いあったり。ローさんお目当てのシロクマくんのところでは、私が「怖くないんですか」と言うと「ガラスがあるからな」とガラスをコツンと叩いてあの意地悪な笑みを見せたり。
とにかく、ローさんとの距離がちょっとだけ近づいたような感じがする。こんなこと思うのは、おこがましいのかな。




「お前は欲しい物ないのか」
「……ローさんは、買いすぎだと思います」

ローさんの腕の中には、シロクマを筆頭にペンギン、シャチ、ジンベイザメ…たくさんのぬいぐるみが収められている。他にも事務所に配るらしいお菓子とか、キーホルダーとか、とにかく色々持っていて、いざレジに向かおうという感じだ。(ちょっとだけ引きました。言えないけど)

「ローさんは時間かかりそうですし、私、そっちのレジで買ってくるのであとで合流しましょ!」
「あァ」

作戦成功。
私には、チケットも買ってもらっているローさんにお礼をするミッションがある。その第1段階「ローさんとちょっと別行動」はクリアした。そして違うレジで、ローさんに差し上げるシロクマキーホルダーを購入。よし!完璧だ。合流する場所として約束をしていた、シロクマの壁画に寄りかかってローさんの帰りを待つ。そこで、久しぶりにスマホを開くとエースくんからLINEが入っていた。返事をしようと指を動かす時、すっと辺りが暗くなる。何かの影になったんだと顔を上げると、大きな袋を持っているローさんが立っていた。

「デート中だっていうのに、他の男とLINEか?」
「でっ……そ、そそそんな!」

"デート"なんて衝撃的な言葉が今日初めて登場して、ぼぼぼと顔が熱くなる。そんなつもり、まったくなかった。ローさんの趣味のついで、くらいだと…

「確かに取材のことはあるが…わざわざお前を誘ったのはお前のことを知りたかったからだ」
「……わ、たしを」
「だから、デート」

口角をくいと上げた意地悪っぽいのに、何故か少し色っぽい笑み。ローさんのずるい笑み。それに私は「…ひぇ…」としか声が出ず、とにかくスマホを急いでカバンにしまう。すると良しと言わんばかりに、ローさんが笑顔を深める。私はその笑顔を直視出来なくて、行くぞと歩き出したローさんの後をただただおいかけることしかできなかった。

「ニナ」
「ふひゃいっ!」

そこまでずっと無言だったのに、もう少しであの本屋さんというところで不意に名前を呼ばれた。びっくりして変な返事をすると、「落ち着けバカ」と優しく微笑まれる。今日は、もう、どうしていいかわからないくらい、ローさんの笑顔に撃ち抜かれ続けている。「手」と短く言われた通りに手を出すと、そこに小さな袋がぽんと乗せられた。へ、と間抜けな声をあげてからローさんの顔を見上げると、「やる」とだけ。って、

「ま、…ッチケットだって出して貰っているのに…!!」
「あれはあれ、これはこれだ。」

呆気からんに答えるローさんにあんぐり、と口が塞がらない。まさか、ローさんが私にはお土産を買ってくれるだなんて、思ってもみなくて。ただ、それを見てはっました私は「ローさんも手を出してください」と、おずおずと言った。

「わ、私からもお礼をしたくて」
「…開けても?」
「……はい」

すらりとした大きな手に乗った小さな袋。かさりと音を立てて水族館デザインのそれが長い指に開けられていく。中からチャリンと出てきたシロクマのキーホルダーを見て、ローさんはふっと笑った。

「……悪くねェ」

ほ、と胸を撫で下ろしたと同時に、「じゃァな」と短い言葉と頭に優しく暖かい感触。ロングコートを翻して去っていくローさんの後ろ姿を見つめながら、ぽんぽんと撫でられた頭から、熱が出そうな気持ちだった。
そんな気持ちを抑えながらおうちにどうにかこうにか歩いた。部屋に戻ってベッドに体を放り投げてから、そういえばローさんから頂いたものを見ていない!と袋を開ける。ローさんがあの時どうして笑ったのか、中に入っていた私が彼にあげたものと全く同じシロクマのキーホルダーを見て全て理解した。







souvenir









お揃いのそれ

prev next

[back]