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あのあと、額にはっきり怒りマークが見えるくらいのナミがやってきて、サンジを捕まえて船に帰っていった。…のだが、その数分後にはしれっとした顔でルフィが私の前に現れたので、何とも呆れてしまった。
「なァ!この前サボに会ったんだろ!」
「え?あー…そう、ね」
「ししっサボが話してた!"アイツも落ち着きねェよな"って」
「………」
そんな風に言われてしまうとは。
というか、サボからそういった連絡があったということは、カクさんとの1戦は無事だったということ。…それには安堵した。ただ、とにかくあの日は迷惑をかけてしまったから、そう言われてしまうのも無理はないのかもしれない。
「というか、ルフィこそここにいていいの?」
「え?なんでだ?」
「ナミに怒られない?」
「おれはのニナメシが食いてーだけだ!」
「…そういう問題じゃなくて…まあ、いいや」
ニクー!と叫びながら両手を突き上げるルフィに何とも呆れてしまうけれど、その普通の姿に少しだけ安心する私もいた。
「おれさ」
「え?」
お肉料理を出すまでにルフィに出したものはいつの間にやらルフィは胃の中に収め、私をじいと見つめる。そのある意味無垢で真っ直ぐすぎる目には、海兵のころから踊らされてきた。少し、恐怖すら覚えてしまう。
「お前が好きだって言ったろ」
まさかこのタイミングでその話に行くとは思っていなかった私は、ガシャンッと持っていたフライパンをコンロに落としてしまった。(お肉は無事だった)明らかな動揺を隠しきれず、口ごもっていると、ルフィはにっと笑って言葉を続ける。
「トラ男にも、ゾロたちにも怒られたけどな!」
「……はは」
「ただ、欲しいもんは欲しいだろ?」
「貴方らしいね」
「おれらしいってのはよくわかんねーけどよォ、ニナがトラ男といるとモヤモヤする。ゾロやサンジと喋ってると、おれと喋れ!って、思う。」
ルフィも考えることがあるんだ、なんて普段なら思っているかもしれないけれど、なんだか今日のルフィはやけに饒舌で、大人びていて、それに加えて言葉もストレートだから顔がどんどん熱くなる。冷や汗かいてきた。
「お前が泣いてると、嫌だって思う」
「…ルフィ」
「その原因がトラ男なら、おれがトラ男をぶっ飛ばしてやる」
ばちん、と音を立てて手のひらに拳をぶつけるルフィの顔は、決してふざけている表情では無くて。だからこそ、私はルフィだと分かっているのに、変に話し出てしまった。
「…もちろんね、ローが原因で泣くこともあるよ」
「あァ」
「ローと一緒にいると、悲しいことも寂しいことも、辛いことも沢山ある。 けどね、……けどね、ルフィ。それが全てじゃないの。…それを全然忘れちゃうくらい、ローと一緒にいると楽しいの。幸せなの。嬉しいの。だから、」
続きが出そうになったとき、はっとして正気に戻る。ばっと下を向いていた顔を上げると、びっくりするくらい大人びた笑顔で私を見つめながら話を聞いてくれるルフィがいて。全て見透かされて居るようだった。
「だから、大丈夫」
閉じかけた口がまた、最後に動いて、はっきりと、真っ直ぐと伝える。するとルフィは、いつものように明るく「そっか!」と笑った。そしてそんな話をしている間に真っ黒寸前になったお肉を、「うめェ!」とニコニコしながら綺麗に平らげてくれた。
底知れぬ王たる、器
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