隼人:EternalSpring
side:新開隼人

ずっと好きだった。どんな時も隣で俺を支えてくれていた彼女。苦しい時は隣で笑ってくれて、嬉しい時は隣で嬉し涙を流してくれた。インハイ後に告白しようと思っていたら、大学も同じだと聞いて、かっこ悪いけど関係を崩すのが怖くて言えなかった。

大学が決まってからは2人でなんとなく出かけたり、芽依の新生活準備の荷物持ちを買って出てみたり。

どうにか彼女の特別になりたい、そんな一心でその隣を平然を装いながら必死でキープしていた。

靖友には「とっとと告れヨ」なんて言われたけど、靖友はわかってないんだ。彼女の特別になりたいのと同じくらい、彼女を失いたくなくて言えない俺の気持ちを。

大学に入学してからも相変わらずの距離感で過ごしていた。彼女にとって多分、一番仲のいい男のはずだった、のに。

「…隼人?」

何故か俺は芽依の部屋で、彼女を自分の腕の中に閉じ込めていた。

***

遡ること6時間前。
その日は寿一と芽依と3人で芽依の部屋に集まり夕飯を食べる予定だった。

それが寿一が風邪をひいたとかなんとかで行けなくなったと連絡が来たのだ。

『どうする?』

そう彼女にLIMEをしたら『餃子作ろうと思って材料買っちゃった』とウサギが泣いているスタンプ付きで送られてきた。

高校からずっと一緒にいるけど、部室以外で彼女と部屋に二人きりになったことなどない。分かっているのだろうか、年頃の男を自分の部屋に呼ぶということがどういうことか。

彼女の無防備さに呆れながらも、別に俺が何もしなければいいのだと自分に言い聞かせて彼女の部屋に足を運んだ。

「一緒に作ろ」

すでに彼女が下ごしらえしていた餃子の具材が入ったボウルと皮をリビングの大きなテーブルに出して2人でくだらない話をしながら餃子を包む。

「福ちゃん平気かな?」
「写真撮って送ってやろうか」

彼女が作りかけの餃子のお皿を持つ姿を写真に収めてLIMEを開き寿一に写真を送る。

するとすぐに、寿一から何故か尽八、靖友とのグループメッセージに連絡が入った。

『すまない、本当は風邪はひいていない。東堂と荒北に頼むと言われた』

「は?」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」

どういうことだ。

『隼人、いい加減先に進んだ方がいいぞ、自信を持て』
『ここまでお膳立てしてやったんだからちゃんとしろよ、芽依チャン他の男にとられっぞ』

次から次に、ポンポンとメッセージが入る。

「え?」
「隼人?」
「あ、いや…ごめんちょっとトイレ借りる」

慌ててトイレに駆け込み返信をする。

『寿一どういうこと』
『いつまでモダモダしてんだよ、ダメ4番』
『フクのナイスアシストだろ』
『お前は強い』

………

「いやいや、強いって…」

参ったな、と小さく呟き頭を掻く。

『ありがと』

何がありがとうなんだと自分にツッコミを入れて深呼吸。それでもらしく無い気の使い方をした長年の友人からのお膳立て、覚悟を決めようと決心して、トイレのドアを開いた。

「私、焼き始めちゃうね〜」

俺が戻ってきたのを確認すると彼女が席を立った。

鼻歌交じりにフライパンに油を広げて、丁寧に餃子を並べていく。

「ふふっ、隼人へたっぴ」

笑いながら俺が包んだ餃子を手に持ちこちらを向く彼女の笑顔にときめく。その笑顔に何度救われたことだろうか。

「食えれば一緒だろ?」
「えー、まあね」

次は福ちゃんも来られるといいなぁなんて言いながら火加減を見る彼女を見つつ、数枚だけ残っていた皮で残りの餃子を作った。

「ん〜、いい香り!」

漂ってくる香ばしい香りが、出来上がりを告げる。

「2人になっちゃったけど、楽しいね」

シンクで手を洗う俺にニコニコと笑いかける彼女を見たら、なんかもう、いいよな、なんて。こんな風に覚悟が決まるとは思ってもいなかったけど。そうだよな、靖友の言う通りだ。他の男に取られたらたまったもんじゃない。

「芽依」
「ん〜?」
「付き合おう」
「ん〜……っ、へ!?」

餃子が乗った皿が彼女の手から落ちる直前でそれを受け取りテーブルに置く。

「今、なんて言っ…」


顔を真っ赤にして俺を見る彼女が愛しくて、自分の腕に閉じ込めた。

「…隼人?」

そう、本当はこのままもっともっと彼女の隣が俺であることが当たり前になってからなんてそんな生ぬるいことを考えていたはずだった。

でもやっぱり、もっともっと彼女の近くにいたい。

「好き」
「はや、と」
「芽依のことが好きだよ、俺」
「隼人…」
「芽依、好き、もっと2人で一緒にいたい」
「…隼人…ん…」

ギュッと、俺の背中に回った手に力が込められたのがわかる。肯定、でいいんだよな。

「芽依の気持ち、教えて」
「…私も隼人が好き…」

長い長い片思いの終わりは幸せで溢れていて。

俺にまっすぐ向けられたその瞳をずっとずっと大事にしようとそう誓った。
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