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インターハイ3日目。会場に千葉、総北高校の優勝が告げられる。
その瞬間、総北高校の1年生、小野田くんが手を天に掲げ、真波は下を向いたままだった。
私たちの夏が終わった。
表彰式が終わり、テントに部員たちが戻ってくる。
真波は下を向き、私に向かって「名さん、ごめんなさい」と告げた。
首を横に振り真波の頭を撫でると、その後ろで隼人が困ったように笑ったのが見えた。
「真波、ちゃんと水分補給してね」
そう彼に話して隼人の元へ向かう。
「隼人」
「スプリント、取れたよ」
表彰式で貰ったらしい花束を掲げて隼人は笑った。
「うん」
「でも名が見たかったのはこのリザルトじゃないよな」
「ううん。おめでとう」
「ありがとう。名のお陰でここまで来れた。でも、ごめん、1番になるところ見せられなくて」
「っ…」
言葉が出なくなる。もっと私にできることがあったのではないか。そんなことばかり考えていた。でも、私よりも何倍も悔しいはずの人たちがここにいる。私なんかが泣けない。
「名、ちょっとあっち行こうか」
隼人は私に笑いかけて手を引いた。
***
「落ち着いたか?」
「…っ、ごめん、私なんかが泣いて」
「私なんか、じゃないだろ」
「……でも」
「名は3年間俺たちのことずっと支えてくれてた。悔しいのは当たり前だよ」
「っ、でも私は、本当はいまも隼人のこと、支えてあげたかったのに、….泣いて…」
「いいんだよ、俺は散々名に支えてもらったから、なんなら俺の胸でもう一回泣いとくか?」
笑いながら隼人は手を広げ首を傾げる。
「っ…、そうしとく」
私が隼人の胸に飛び込む瞬間、彼は驚いたような表情をしていた気がした。
「隼人、スプリントリザルトおめでとう。昨日も。左から抜いたって聞いたよ。良かった」
「ありがとう」
「隼人は、悔いなく走れた?」
「ああ」
「それなら、良かった。3年間ありがとう」
その言葉の後、どのくらいの時間だろうか、彼は私の肩を抱き続けていた。
***
帰りの車中、何も言わず私の隣に座った隼人はバスが動き出してから誰にも見えないように私の手を握る。
「名」
「うん」
「ありがとな」
「こちらこそ」
何度目かわからない感謝を2人で述べ合いながら、手を強く握り返した。