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部活に復帰する日がやって来た。
「隼人、一緒に行こ、部室」
わざわざ俺の教室まで迎えに来た名の言葉に甘えて2人で部室に向かう。
「なあ名、ありがとな、本当に」
「お礼はインハイ終わってから言ってくださーい」
「俺、頑張るから」
「うん、約束だよ」
「あと、さ…」
ずっと心に引っかかっていたことを口に出す。
「その、キス、してごめん」
「………えー、今言う?それ」
一瞬戸惑った表情を見せた名が、今更だよーと笑い出した。
「ずっと謝れなくて」
「うん、いいよ、部屋行ったの私だし」
「ありがとう、あの日。来てくれて」
「ううん、連れて行ってくれた荒北にお礼言っておいて」
「あぁ」
「あれ、私のファーストキスなんだから責任とってよね」
「え」
「責任とってちゃんと来年リザルト取ってきて」
「嘘だろ?え…ごめん、まじで」
…俺、最低なことをしたんじゃないか。
「隼人なら、いいかなって思ったから」
「……っ」
「ふふっ、隼人、顔真っ赤〜」
「名っ」
「ほら、行くよ!復帰初日から遅刻しちゃだめだぞ〜」
気にしてない訳がないのに、俺のことをからかって空気を変えさせない名の優しさに救われながら、隼人ならいいかな、なんていう言葉を頭の中で反芻させる。
「名」
前を歩く彼女の名前を呼ぶと彼女は笑顔で振り向いた。
「なあに、隼人」
「俺、インハイ絶対頑張るから」
「うん、もちろんでしょ」
「責任取るから」
「もう、まだその話?はいはい、よろしくね」
「責任取るから、だから今年のクリスマスもデートしよう、来年も、再来年も」
「そんなに仮カップル継続させるつもり無いんですけど〜」
「わかってる、だから」
「じゃあ、この話の続きは来年の夏ね」
笑顔で俺の話を遮る名の頬はほんのり赤く染まっていて。
「来年のインハイ、楽しみだな、みんなが一番になるところ、早く見たい」
「名」
「それまで、頑張ろうね。よろしく。彼氏(仮)の隼人くん」
「……おう」
「さっきの話の続き、楽しみにしてるね。…あと今年のクリスマスも」
「……ずりぃな、おめさん」
「今年のクリスマスはどこ行こうかな〜」
楽しそうに今年は去年行ったテーマパークの隣にある方に行こうだとか、東堂今年もチケットくれないかなぁだとかそんなことを話している彼女の隣に並び、部室へ向かった。
***
復帰初日、部活終わりに寿一、靖友、尽八と4人で走りに行った。
「隼人、随分機嫌がいいな」
「やっと戻って来れたからな」
「それだけェ?」
「俺、来年絶対インハイでゼッケンとるよ」
「新開、お前は最速の男だ……姓にゼッケンを取るところを見せたいんだろう?」
「福ちゃんがそんなこと言うなんて珍しいねェ」
「姓はずっとお前が帰ってくるのを待っていたぞ」
「寿一、みんなも、ありがとな」
必ず来年の夏、名の見たい景色を見せることを心に誓った。