wazatodayo

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新開がインターハイメンバーを辞退したのは俺が名チャンを奴の部屋に連れて行ってすぐのことだった。

叱責の言葉が飛び交う部室内、真っ直ぐと新開を見つめる名チャンが一体何を考えているのか全くわからない。
ただ、この空間で唯一、新開の抱えている何かを知っている人物であることは間違いなかった。

「名チャン」
「うん」
「知ってンだよな」
「隼人から、話せるようになったらきっと話すよ」

そう言うと彼女は部室を出ていった新開を追いかけることもせず、マネージャーの仕事に戻っていった。


***


それから数日経って、俺と東堂は新開からインターハイ辞退の背景を聞いた。

「名チャンはァ?話したんだろ?なんて?」
「どんな決断をしても俺の味方だってさ」
「とんだ男前な偽物彼女だなァ」
「参ったよ。連れてきたウサギ、ウサ吉って名前にしたんだ。名と考えた。メスだったんだけどな」
「随分仲の良い偽恋人なのだな」
「……おめさんたちの言いたいことはわかってるよ、でも今はまだ」
「隼人、姓はお前がインターハイで、スプリントのリザルトラインを1番で通り過ぎるところを見たいと言っていた」
「え?」
「……秘密にしてくれって言われたから俺が話したことは言わないでくれ」
「……あぁ」
「愛情深い偽彼女なことでェ」
「隼人、お前がまた走ると言うなら俺たちは何でも手伝うぞ。お前がスプリントリザルトを取るのが俺たちのお姫様の夢らしいからな。お前達がそれまでどんな関係でいても構わん。但し、姓を泣かせるな」
「ああ、わかってるさ。ありがとな」

それから暫くして新開はまた自転車に乗ることに決めた。


***

数週間後、新開が毎日夜練習をしているらしいと東堂から聞いた俺は付き合ってやろうかと考え部室に残って奴を待っていた。

「あ、荒北まだ残ってたの?」
「名チャン、帰ったんじゃないのォ?」
「あー、うん、ちょっとね」
「新開だろ」
「あはは、バレてたか」
「練習毎日付き合ってんのォ?」
「うん。それぐらいしか私にはできないから」
「うさぎはどうしてる?」
「ウサ吉ね、超可愛いよ」
「名チャンに懐いてるらしいじゃナァイ」
「うん。今度荒北も一緒に餌やりする?最近手から食べてくれるんだよ」

そう笑う名チャンは一度解かれた髪をもう一度ポニーテールに結び直す。

「よしっ、荒北も………隼人待ち?」
「そのつもりで残ってた」
「やっぱり。優しいね」
「名チャンほどじゃァないけどね」
「そろそろ来るよ、はい。荒北のボトル」
「おー」

そこにやってきた新開は俺がいることに驚きつつも嬉しそうな顔をしていて。

まだ本気での走りは無理だと、2人で流しながら学校の周りを走った。

「名チャン、随分と健気じゃねェか」
「あぁ。堪んねえよ、聞いてくれるか?靖友」
「興味ねェ」
「あの日な」
「結局話すのかヨ…」

それから新開がした話は少し衝撃だった。

あの日、俺が名チャンを新開の部屋に連れて行った日、新開は全てを拒絶したくて、彼女に嫌われようとしたそうだ。「彼女なら身体で慰めてくれ」そう言ったと。何をしたか、までは聞いてないが、想像するのは簡単だ。
彼女はそれを拒まなかったどころか、新開を受け入れて、ただひたすらに話を受け止め、一緒に泣いてくれたらしい。

「俺さ、名のこと絶対傷つけちゃいけねぇなって、思ったよ」
「ンでェ?それなのに、偽恋人は継続ってか?」
「今、名に本物の恋人になりたいって言ったら、なんて言われると思うか?」

何よりも俺たちが1番になることを願っている彼女だ。専ら、コイツがインハイに出ることが今の彼女最大の夢だろう。

「バカじゃないの?か、今そんなことしてる場合?か、そんなこと考える暇あるならチャリ乗れ!か」
「全部言われそうだな」

そうやって苦笑いをする隣の男は、当分彼女と恋人にはなれそうにないくせに随分と幸せそうだった。


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