wazatodayo

 09


同じ部活の新開隼人とマネージャーの姓名が付き合いだしたと聞いたのは去年の秋のことだった。
入学から僅か数か月、俺ほどではないがモテていて、告白されても付き合う気がないと断ることで有名な二人だっただけに、とても驚いたことを覚えている。

付き合っている、と言っている割にあまり漂わないお互いへの気持ちに最初は違和感を感じたし、荒北はアイツら本当に付き合ってんのか?などと言っていたが、少しずつ二人の間にはカップルらしいソレが漂うようになって来たと感じていた。はずだった。


***


「なあ名、来週の日曜暇か?」
「うん」
「じゃあ部活終わった後デートしよう」
「なんでそうなるの」
「カップルのフリ、最近してないだろ?」
「してる、まさに今、お昼食べてる」
「いいじゃんか、観たい映画あるんだよ」
「東堂でも誘えば〜」
「何が悲しくてアイツとラブコメ観るんだ」
「もう、最近あんまり仮っぽくない!」
「いいじゃねえか、もう何回か一緒に出かけたろ?最近名冷たいぜ」
「彼氏みたいなこと言って!」
「な?帰りに駅前のパンケーキ寄っていいから」
「……わかった」

………どういうことだ。
思わず隣にいた荒北、フクと顔を見合わせる。フクはポカンとして、荒北は顔を顰めている。

新学期、新しいクラスも慣れてきた5月、久しぶりに3人で屋上で昼飯食べていると、新開と名がやってきた。二人は俺たちには気が付かずにフェンス近くに腰をかけ昼を食べ始めた。
確かに今日は隼人は名と昼を食べるからパスと言っていたことを思い出す。二人の恋人らしい会話を聞いたことがなかった俺たちは興味本位で声をかけるのをやめて聞き耳を立てていた。
そこで聞こえてきた会話がこれだ。


「そういうことねェ」
「どういうことだ荒北」
「可笑しいと思ったろ?突然付き合い始めて」
「まあ、驚いたが」
「しかもあんまりお互い最初は、好き合ってなさそうだったしィ?断る口実で付き合い始めたっつーか、付き合ってることにしたんじゃねェの?」
「なっ、そんな」
「まっ、今はどうなんだから知らねェけど、アイツらも随分回りくどい面倒くせェことしてンなァ」
「意味がわからん!聞いてくる!」
「ちょ、東堂、待てッ…バァカッ」

後ろから荒北の声はしたが、もう俺の足は二人へ向かっていた。

「隼人、姓、今の会話はどういうことだ」

あからさまに、ゲッとした顔をした姓と、悪戯がバレた子供のような顔をした隼人を連れて俺たちが弁当を食べていた場所に戻る。


「それで、どういうことか説明しろ」
「………」
「えーっと、どこからどこまで聞いてた?」

黙り込む姓の肩に手を置いて隼人が話し始める。
俺が話すから大丈夫だ、とでも言いたげだ。

「最初から最後までェ」
「おめさんたち悪趣味だな」
「東堂とラブコメ観たくないって所には同意するヨ」
「なっ、荒北!今はそういう話じゃない!」
「まァ、告白を断る口実から始まったってとこだろ」
「騙しててごめんなさい…」

荒北の追求に姓が観念したように言葉をポツリ、と発した。

その後新開が二人が彼氏、彼女と名乗るようになるまでの経緯を話してくれたが、何故二人がそんな関係をずっと続けていられるのか、何故その関係を保つためにこうして二人で過ごしているのか、全てが全く理解できなかった。
そんな偽物の関係を半年もの間続けられたというのか。
何より、2人の間に確かに漂っていたお互いを思い合ってる空気も偽物だというのか。

「悪かったな、おめさんたちまで騙しちまって」
「じゃ、じゃあクリスマスのお土産は」
「あぁ、あれは本当に行ってきたぜ、二人で、楽しかった、な?」
「うん、ありがと、東堂」
「付き合ってないのにか!?」
「まぁ…付き合ってないっちゃないけど、付き合っているっちゃいる」
「よくわかんねェけど何でそんな面倒なことしてンだ」
「まぁ、色々な。俺らが3年のインハイが終わるまで。ちゃんと、考えながらやってるから」
「はぁ…ごめんね、秘密にしてて」
「じゃあ、お互い好きじゃないのか?」
「………」
「尽八、あんまり核心をつかないでくれよ」
「東堂、その話はまた今度、ね」

困ったように笑う二人を前に、これ以上はやめとけ、と荒北に目で言われたような気がして、そこで話はお開きにした。


***


「東堂、お疲れ」
「姓」

その日の部活終わり、一人自転車のメンテナンスをしていると姓が後ろから声をかけてきた。

「今日のお昼はごめんね。驚かせて」
「いや。でもいいのか?これで。2人の気持ちは?好きなんじゃないのか、俺はてっきり…」
「………隼人には、秘密にしてくれる?」
「あぁ」

メンテナンス中の俺の横に腰掛けると姓がひとつひとつ言葉を選びながら話し始めた。

「最初提案された時は、隼人、何言ってるんだろうって思ったんだ。でもまあ、いいかなって。告白を断るためというか、告白されるのが減ると良いな、みたいな。自分でも酷い事してると思ってる。でも、人の好意を断り続けるのにも参っちゃってさ。3年のインハイが終わるまで、こういうこと考えなくてよくなるかなって思った。あとうちの部活の部員は目立つでしょう?東堂も。仲が良いとかやっかみを受けるくらいなら彼氏がいるってしておいた方が色々楽かなっていうのもあった」

「それで、最初はその提案に乗ったの。条件は、好きな人ができたらそこで終わりにするってこと。嘘なんじゃないかって怪しまれないように部活が終わったら一緒に帰ってみたり、昼休み一緒にご飯食べたり、少しだけカップルみたいな行動を取ろうって。そんな事してる内に、隼人が特別になっちゃったんだよね。」

「特別、か」

「だからこんな意味不明な関係を続けてるんだと思う。必要ないのにデートしたりさ」

「好きじゃないのか?」

「………好きだよ、でも隼人には言えない。こんな関係でも、隣に居られるなら良いって思っちゃったし、あと、本物の彼氏と彼女になるのが少し怖い」

「怖い?」

「そしたら本当にお別れが来ちゃうかもしれないし、いろんな汚い気持ちで隼人を傷つけるかもしれないし」

「そんなこと…」

「それに、今はそんなことにうつつを抜かしてる時期じゃないしね。みんなが一番になるところ見たいし、隼人がインハイでスプリントのリザルトライン一番で通り過ぎる所見たいんだ」

「姓…」

「心配してくれてありがとう。騙してて本当にごめんね。変な関係だけど、私たちなりにお互いのことは本当に大切にしてるから。見守っててほしい。って言うのも変か。」

そう笑う姓の顔は、幸せそうだけど切なかった。

「あまり拗らせるなよ」
「ありがとう、今日の話は絶対隼人には秘密にしてね」

この2人は本当に大馬鹿者だと思う。
最初は偽物だった関係も、きっと今はお互いを大切に思い合っているということは今日の話しぶりだけじゃなくて、日頃一緒に過ごしているから伝わってくる。
それなのに、あくまでも偽物の形に拘るなんて本当に大馬鹿者だ。

「バカだな、あいつらは」

そんなどうしようもない不器用でバカな友人2人の道がどうかうまく交わりますように、と綺麗な夕焼け空を見ながら願った。

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