06
どのくらいの時間が経ったのだろう。
もう昼休み終了のチャイムが鳴ってしまった。
「隼人、ありがとう。ごめんね、もう大丈夫。」
そう言うと隼人は抱きしめていた腕を緩めて私の涙を拭ってくれた。
「ごめん、もっと早く見つけられればよかった」
よく見ると隼人の額には汗がじんわりと滲んでいる。
「探してくれたの?」
「来るの、遅かったから。心配になって」
「ありがとう」
「こんなことになるなんて思ってなかった、ごめんな。怖かったよな」
「隼人が来てくれたから大丈夫だよ」
「名の声、聞こえたから。俺のこと呼んでた」
「ごめん、咄嗟に出たのが隼人の名前だった。仮なのに、ごめんね」
なんとか作った笑顔を貼り付けて笑いかけるとまた隼人は私を抱きしめる。
「名、良いから、もっと頼って」
「うん」
「仮かもしんねえけど、彼氏だし」
「うん」
「いつでも駆けつけるから」
「うん、ありがと」
「5時間目、もう始まっちまったな、ここでサボろうか」
「うん、隼人までサボらせてごめん」
「謝らなくていいから、俺外向いてるから、服整えな」
そう言って隼人は私の身体を離し窓の外を見る。
隼人の優しさと気遣いと暖かさに少しずつ嫌な気持ちが和らぐことを感じながら、制服を元に戻した。
「隼人、ありがとう、もう平気」
そう言うと隼人はこちらを振り向き私の隣に立つ。
「座ろうか」
私の頭を撫でると、地べたに座り込んだ。
隼人に倣って私も隣に座る。
「名、怖い思いさせてごめんな」
「隼人のせいじゃないよ」
「頭に血が上ってアイツのこと殴り飛ばしそうだった」
「うん、すごい顔してた」
「なんかさ、うん」
隼人が言葉を選びながら話し始めるのがわかる。
「仮、とか思ってたけど、こう、3ヶ月一緒にいて」
そう言うと隼人は私の手に自分の手を重ねた。
「なんだろ、ちょっと特別な、なんか、うん。ただの友達でもないし、大切だから。名のこと」
顔が熱くなる。
「だから、なんかあったらすぐ俺のこと頼ってくれ」
「ありがとう、私も隼人のこと特別だから、何かあったら頼ってね」
隼人はこの言葉をどんな気持ちで言ったんだろう。
私はというと収まらない胸のドキドキが隼人に伝わってしまわないか心配で必死で赤くなる顔を抑える。
特別、としか言い表すことができないこの関係。
いつもより早い、この鼓動の正体に気がついたところで、待ち構えるのはこの関係の終止符だ。
きっと気のせい、そう自分に言い聞かせながら、手から伝わる隼人の体温を感じていた。
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