03
名に偽造カップルを提案した俺に下心が一切なかったといえば嘘になる。
綺麗で可愛いのに飾らない気の使える女の子。
それが名の印象だった。
勿論、彼女に話した理由は本当に思っていたことだ。ただ、我ながらそんな最低な話をなぜ彼女に提案したか、今になって考えるとそんな男子が憧れるいわば学園のマドンナ的存在の彼女を自分の彼女だと言える立場へのほんの少しの興味があったからだろう。
***
「隼人、帰ろ」
そんな彼氏彼女のフリを始めて1ヶ月。
彼女の隼人という呼びかけにも慣れて来た。
バラバラに帰寮するのも少し変なので部活終わり時間が合うときは一緒に帰り、さらに昼休みも週に1度だけ一緒に飯を食うことになった。
全部、俺からの提案だけど。
「手、繋いどく?」
「繋ぎません」
こんなやりとりもだんだん当たり前になってきた。
この1ヶ月で今まで知らなかった彼女を知ることになった。
まず知ったことは彼女の恋愛遍歴。
名は過去数人、付き合ったことがあるらしいが全て1ヶ月で別れを告げたらしい。好きになるという感覚がよくわからないと言っていた。
それから意外とピュアなところ。
隼人、と呼んでもらうまでに3週間。恥ずかしそうに隼人、と呼ぶ意外に男慣れしていない彼女に少し心が和んだ。
それからやっぱり彼女は優しくて強い女の子だった。
彼女が俺に好意を持ってくれていた女の子に呼び出されたと聞いて慌てて駆けつけようとしたら、「ここで私に水をかけたところで隼人の矢印があなたに向くわけじゃないし、隼人に想いを伝えるのは自由なので私に話すより本人に話したらどうか。」と冷静に、でも優しさを持って答えていて、俺の出番は全く無し。
その後、俺がいたことに気がついた彼女に「駆けつける、と約束したけど、そもそも水かけられそうにないじゃないか」と言ったら笑っていた。
「交際記録更新だな、1ヶ月経ったぜ」
「(仮)はノーカウントだから」
そう言って笑う彼女の隣が、俺にとって心地の良い場所に変わってきている。
「なあ、俺らどっちかに好きな人ができたら終わりだよな?」
「そりゃそうでしょ」
「じゃあ、どっちかがどっちかのこと好きになったら?」
「どういうこと?」
「だから、例えば名が俺のこと好きになったら?」
「例えが私からの矢印なのが癪だけど、そうだね、もしそうなったらどうしよっか、無いと思うけど」
「こっそりアピールして良いことにする?」
「こっそりって」
「ははっ、堂々と、はし辛いだろ?」
「まあ、万が一そうなったらそれはその人に任せるということで」
「了解、もし俺のこと好きになっちまったら言ってな、ちゃんと考えるから」
「あはは、もー、なんで私からの矢印前提なの?しっかりわきまえて(仮)を務めさせていただきまーす」
俺はもし、彼女のことを好きになってしまった時、どうするのだろう。そう悩む日が、すぐ来そうなこともなんとなく自分で感じていた。
***
「それでね、新開のどこが好きなの?とか問いただされちゃったよ」
名と屋上で飯を食いながら、名が昨日された告白の話を聞く。
「ヒュウ!なんて答えたんだ?」
「秘密」
「教えてくれよ」
「やだ〜」
「気になるだろ」
「隼人はなんて答えるの?聞かれたら」
「顔」
「うわ、引く」
「嘘だよ、そうだな、優しくて可愛くて気が使えて強くて自分を持ってて…」
「も、もういい……」
「照れたか?」
「よくそんなにスラスラと口から出まかせ言えるよね」
「出まかせじゃないぜ、で、名はなんて答えたんだ?」
「優しくて強くてちょっとかわいいとこ」
「ヒュウ!俺愛されてるな」
「(仮)だから、嘘だからね、これ」
嘘でそんな出てこないだろう、名はそんなことを俺に思ってくれているんだなと少し嬉しくなった。
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