wazatodayo

 31回目の正直


「黒田さん、」
「付き合いません」
「まだ何も言ってない!!好きです」
「はいはい」
「だめですか?」
「だめ」
「はあ、もう記念すべき30回目の失恋ですよ、ありがとうございました」

そう笑って俺に告げる彼女の名前は姓名

1つ下の学年だが、箱根学園自転車競技部の女子マネージャーで、他校から羨ましがられるほど仕事は完璧だ。

それなりに可愛く綺麗な方だと思うが、何を好き好んでなのか、こいつが1年の時のバレンタイン以来、何度も俺に告白をしてきている。

最初の告白は手に綺麗なラッピングをしたチョコレートを差し出しながら、顔を真っ赤にした姓が俺に好きだと伝えた。

「黒田さんのことが好きです」
「ありがとう、でも悪いけど今は付き合うとかそういうの考えられないから」

ホワイトデーで振った女にお返しを渡すのもどうかと思ったが貰ったものには返したほうがいいだろうとお返しを渡したところ2度目の告白をされた。

その時は「2回も告白するつもりはなかった」と言っていたが、それから事あるごとに告白をされて、今日で30回目らしい。

振っておいてなんだが、すごく真剣に好きだと言われることもあれば、笑いながらいつになったら彼女にしてくれるのかと問われることもある告白は、毎月の恒例行事のようになっている。

「ユキちゃん、また名ちゃんのこと振ったの?そろそろ応えてあげればいいのに」
「また振ったって言われてもな、応えるも何も、付き合えないもんは付き合えないからしょうがないだろ」
「ユキも満更でもなさそうに見えるけど違うのかい?」
「はっ、ちげーよ、あいつは犬みたいなもんだな、俺は猫の方が好きだけど」
「ユキちゃん、名ちゃんの告白楽しんでるでしょう、悪趣味だよね。名ちゃんは真剣なんだからちゃんと考えてあげないと」

わかってるよ、と拓斗に答えると、ユキちゃんはいつまでも名ちゃんが自分のこと好きだと思ってるんだね、と笑われた。



***



「姓、悪い、もう1枚タオルもらえるか?」
「あ、はい、どうぞ」
「…姓、なあ、最近なんかあったか?」
「何がですか?何もないですよ」


最近、姓がおかしい。
仕事は相変わらず早いし完璧にこなしているが俺への態度だけが何かよそよそしくなっている。
少し前まで尻尾を振ってニコニコと近寄ってきていたにも関わらず、この1ヶ月は必要最低限の用事しか近寄ってこない。
告白も、記念すべき30回目とか言っていたのを最後に無い。


そのくせ真波や拓斗とは随分楽しそうに話しているのが何故か俺を苛立たせる。


「なあ、あいつ最近おかしくねえか」
「あいつって、名ちゃん?」
「ああ」
「別におかしくないと思うよ。あ、でも髪、ボブにしてすっごく可愛くなったよね」


長い髪をばっさり短く切ってきたのは3週間くらい前の話だろうか。


「ユキちゃんに失恋したから切ったんだって言ってたよ」
「はあ?失恋なんてあいつ何回めだと…」
「そうだよね、毎回切ってたら坊主になっちゃう。30回振られたら諦めるって決めてたんだって」


悲しそうに笑って話す拓斗は、ユキちゃんも罪な男だね〜と言いながらローラーへ向かっていった。


「…は?」


ああ、じゃあもう告白されることはないってことか。
そうか、まあ別にいいよな、俺は30回も振ってるんだ、いい加減諦めてもらってよかったんだよな。

そんなことを考えながら拓斗の隣で同じようにローラーに乗る。




「……ユキちゃん、ちょっと今日オーバーワークじゃない?」

そう拓斗に言われる頃には一体自分がどのくらいの時間ローラーに乗っていたかもわからないほど疲れ果てていた。

頭の中では姓の今までの告白がぐるぐる巡っていた。


「もう名ちゃんが告白してこないと思ったら寂しくなっちゃった?」


そんなんじゃねえよと返しながら、いつの間にか姓が用意してくれていたらしいスポーツドリンクを口にする。



「あ、黒田さんお疲れ様でーす。なんかすごい疲れてますねぇ」
「うっせー、ちょっと回しすぎただけだ」
「そうですかぁ、あ、そう言えば、名ちゃん、最近うちのクラスのサッカー部の2年生エースと仲良いんですよ、彼、絶対名ちゃんのこと好きだと思うんですよねぇ」

珍しく真面目に平坦の練習をして帰ってきた真波が話し始める。

「黒田さん良いんですかぁ?そういえば今日、部活終わったら放課後迎えに行くから部室で待ってて、とか言われてたなぁ、告白かもなぁ」
「関係ねーよ」
「そっかぁ、そうですよね、関係ないですよねぇ、最近名ちゃん可愛くなったってうちの学年で話題なんできっとすぐ黒田さんのこと忘れられますね」
「そうだな」


いいことじゃねーか。後輩に彼氏ができる。いいことだ。
いいことなのにどうしてこんなにイライラしてんだ、俺は。


***


つい、部室に残ってしまった。
久しぶりに姓と二人きり。
それでもこいつは前のような嬉しそうな反応は一切しない。


「黒田さん、まだ帰らないんですか?」
「姓こそ、帰んねーのかよ」
「私は…ちょっと用事があるので」
「お前、最近仲良い男いるんだって?」
「………黒田さんには関係ないです」
「そいつのこと好きになったのか?」
「…だから、黒田さんには関係ないですよね」
「その男待ってるんだろ?告白されんじゃねーの、良かったな、お前でも彼氏でき…
「黒田さんには関係ない!!!!」

ドンっと机を叩いて立ち上がった姓。
「っ…、すみません、帰ります。お疲れ様でした。」



初めて、あいつの目に涙が浮かんでいるところを見た俺は、自分でも笑ってしまうほど動揺していた。


「黒田さん、手、離してください」

頭で考えるより先に、姓の手首を掴んでしまった。思わず手に力が入ってしまう。

「黒田さん、やめて、痛い」
「他の奴のところなんて行くなよ」

本当にしょうもねえな、俺。最低だろ。
振りまくった挙句、他の男に行こうとする姓を引き止めてる。
でも、こいつが他の男見るのすげー嫌なんだ。

「っ…なんでそういうこと言うんですか?私なりに必死で前向こうとしてるんです。諦めようとしてるんです。邪魔しないで」
「諦めなくていいから、俺だけ見てろよ」
「な、にそれ…黒田さん最低…何言って…」
「ごめん」

「っ………、もう、ごめんは聞きたくないです。私がいつも平気でいたと思ってるんですか?またこいつ言ってるよって楽しんでましたか?私はこれでも振られる度に傷ついてました。すみません、私待ち合わせがあるんで行きます。黒田さんの言う通り、こんな私でも彼氏ができるかもしれませんね。そうしたら黒田さんのことちゃんと諦めますから。今までしつこくしてすみませんでした。」

息つく暇もなく話し切った姓の目からは堪え切れなくなったのだろう大粒の涙が溢れていた。
こんな時に、と思ったが、俺はつい、その涙がとても綺麗だと見とれてしまった。

「本当に悪い、行かないで欲しい」

「………黒田さん、何言ってるかわかって…」
「好きだ」


「は…?」
「ごめん」
「今更何言って」
「都合良すぎだよな」
「はい」
「ごめん、姓から好きだって伝えられるのが当たり前になっちまってた、ずっと続くんだって思ってた」
「なのにいざお前が他の男と手繋いだりするのかと思ったらすげーイライラして」
「いつの間にか俺にとって大切な存在になってたんだって、気がついた」

本当クズだと自分で思いながら、矢継ぎ早に言葉を発していく。

「……本当に黒田さん、最低…」
「だから他のやつのところ行くなよ…」
「今日は約束してるし、真っ直ぐ向けられた好意には真っ直ぐ応えないと傷つくって知ってるんで」
「…そう…だよな…」
「彼には好きな人がいるってちゃんと伝えてきます。でも、私黒田さんに30回振られたんです。だから黒田さんの気持ち31回聞かせてもらうまでさっきの言葉信じられません」
「31回?」
「大丈夫です。今の時点で黒田さんの気の迷いだと思ってるんで。黒田さんに31回伝えて頂くまで諦める努力はやめません」
「わかったよ」


それからと言うもの、俺は休みの日も電話をして、1ヶ月間毎日姓に告白することになった。
姓のために、こんなに何度も想いを伝え続ける自分に驚いた。


「やっと31回目だ、姓、本当に今までごめん。こんな思いさせてたんだってよくわかった。姓が好きだ。今まで泣かせた分、絶対幸せにするから彼女になってくれ」
「………黒田さんって、意外と馬鹿なんですか?本当に31回も告白するなんて、私じゃあるまいし」
「はぁ!?お前がやれってっ…」
「そんなに私のこと好きなんですか?」
「えっ、あぁ…」
「私も好きです。大好きです。彼女にしてもらえますか?」
「っ…、ありがとう」

思わず抱きしめると姓は大きなため息を吐いた。

「はぁ〜30回も黒田さんの告白断るの本当に辛かった」
「30回断られるのしんどかった」
「意地ですよ、もう。黒田さんムカつくと思って、私の気持ち分かれって」
「痛いほどわかりましたスミマセン」
「私もスッキリしました、これで黒田さんも同じ回数振られたことになりますから」

「…なぁ、今日から、黒田さんってやめねーか」
「えっ、いやっ、えっ、それはまだ早くな…」
「名…って呼ぶから」
「えっ……いや…」
「俺の名前知ってるだろ?」
「ゆ、…雪成、さん…」
「ん〜、まあ今日のところはそれでいいか」


すぐに名前で呼んでもらおうだなんて、あんなに断っていた名からの愛をこんなに欲しているのかと苦笑いしながら、30回振って30回振られた彼女抱きしめた。

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