wazatodayo

 ぼくのハローを受け止めて


ファインダーを覗く彼女に密かに恋心を抱いてから数週間。何度か彼女の元へ行き、彼女の撮っている写真を見せてもらった。

少しだけだよ、と見せてくれた彼女のノートはとても綺麗に纏められていて彼女の丁寧でマメな性格を容易に想像させた。

「姓さんは部活はやらないのか?」

すでに6月に差しかかろうとしている時期、様々な部活の活動が盛んな箱根学園では多くの生徒が何かしらの部活に属していた。

「うーん、私運動は苦手だし、楽器もできないし、茶道、とかいうキャラじゃないし。何か東堂くんみたいに夢中に取り組める部活があるなら楽しいだろうけど。私には写真しかないからなぁ」

そう、空を見上げながら話す彼女はどこか寂しそうで。

「ならば、自転車部のマネージャーにならないか?」

彼女ともっと近付きたいという下心が8割、彼女の性格やカメラへの取り組み方、何度も読み返したくなるノートを知ってマネージャー適性を感じたという気持ちが2割。思わず俺は彼女を自分の部活へ勧誘していた。

「む、無理だよ!自転車競技部って…うちの学校の一番有名な部活だよ!?」
「出来るさ、姓さんなら」
「無理無理無理無理、自転車のこと知らないし」
「俺が教えてやろう」
「いやいや、無理だよ無理、そもそもマネージャーとかやったことないし」
「未経験でも大丈夫だ、うちの部活は部員が多いから、レギュラーメンバー以外は雑務も行うし」
「私平穏な毎日を過ごしたいよ…女の子達に裏庭に呼び出されたりとかしたくない…」
「大丈夫さ、俺たちがちゃんと姓さんを守るし、疚しい心がない人のことをいつまでもとやかく言う人もいないだろう」

疚しい心があるのは俺の方だな。

「とりあえず、1日体験でもいいから来てみないか?」

今思い返せばあまりに強引な勧誘だったと思うが、その翌日彼女の腕を引っ張って部活に連れて行ったことが、彼女が王者箱根学園自転車競技部のマネージャーになるきっかけとなった。

***

体験に行けば久しぶりに邪な気持ちを持たずにマネージャー体験に来た女子生徒に喜びを隠しきれない先輩たちが兎に角丁寧に仕事の説明をする。

俺が感じていたマネージャー適性は間違いではなかったようで、想像以上の気配りと丁寧さであっという間に部員たちを虜にしていた。

何よりもその日のタイムは皆少し良くなっていて、更にそれをいとも簡単に綺麗に部誌に取り纏めた彼女を見て、昨日の部誌当番だった東堂とは雲泥の差だと先輩が大喜びだった。

「よろしくお願いします…」

部員達のあまりの厚遇に圧倒されっぱなしの彼女が、部長による部活説明と言う名の30分の勧誘を受け頷いたのはその日の下校時刻ギリギリのことだった。

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