金曜日、ニノが珍しく学校を休んでいた。もともと健康的だし、ちょっと体調悪いくらいじゃ休んだりしない子だから心配になった。担任に「二ノ宮くん何で今日休みなんですか?」って聞いたら、あぁ確かアイツ今日は引っ越しがあるって言ってたなーなんて呑気に耳ほじりながら呟いた。は?先生なに言ってんの?「お、おい!ミョウジ…」先生の声を背中に浴びて私は一目散に駆け出した
「ニノ!」
「? お、おぉナマエ!血相変えてどうしたん!?」
「どうしたじゃないよ!!担任に聞いたよ、引っ越すって!?」
彼は学校近くの公園にいた。なんでこんなとこいんの?とか色々思ったことはあるけど今はそんなことより
「バカ!なんで黙ってたの!?」
笑顔だったニノの表情が強張った。
「なんで言ってくれないの!?」
「いや〜、ナマエがな、泣く思うたら言えんかったんよ」
「なんで!!」ともう一度言おうと口を開いたが、彼と目が合った途端それは叶わず、そして口を閉じることもできず不恰好に固まってしまった
「…学校は?」
「抜けてきた」
「なんでや?ちゃんと授業出なアカンで」
「……ごまかさないで」
「……」
なんでよ、なんで言ってくれなかったのよ。私たち友達でしょ、なんで担任には言って私には秘密にしてるの。
「カンニンな、ナマエ」
「…なにそれ」
「ホンマ言えなかったんよ ナマエ泣き虫やから、俺が引っ越すなんて知ったら絶対泣くやろ?」
「……泣かないもん」
「嘘ついたらアカンで」
「……」
そんな……急に現れて、急にいなくなるなんて、そんな、そんなのあんまりじゃないか、私は…私はさ、ニノのことが、
「好きなのっ…」
「ナマエ」
今まで距離を保って向かい合っていた影が一つになった
「言わんで去ろう思うてたけど、このまんまやと後悔すると思うから言うわ」
意外と大きいニノ、私のおでこが彼の肩に寄りかかった。背中に回る手は強く私を抱きしめて、私もできる限りの力で抱きしめ返したけど男のニノには痛くもかゆくもないみたいだ。頭抱えられて、くしゃっと髪を撫でられた。押さえつけられたせいで、ニノの匂いが鼻を掠める
「なあ…」
彼は私の耳に口を押し当てる。くすぐったい。陽気なイメージの強いニノから初めて聞く、小さくて消えそうな声
「俺、ナマエのことめっちゃ好きやねん」
「…!」
「けどな?恋人同士にはなれへん ナマエが辛い時とか寂しい時に近くにおれんような男はダメや 俺が許さん」
「…」
「ナマエのこと忘れられへん思うけど、ナマエはごっつエエ男見つけて、そいつと一緒になってや 分かったか?」
「そんな…」
「約束な?」
ニノが引っ越すってなったら、笑って見送ってあげようって思っていたけど甘かった。ニノがいなくなってしまう現実など、泣かない方がおかしい。ニノのパーカーは私の涙で染みを作っていて、肩のところだけ変に色が濃くなってしまった。
せめて快く去ってほしくて、ニノの約束を承諾した。うまく声にならないから、思いっきり首を上下に振ると、よし…じゃあ俺行くで。と私から離れて行った。揺れる視界の中、ニノの後姿を見送る
ニノ、大切な思い出をありがとう
好きだけど、私たちもう会うことないのかもね。アイツ連絡先も引っ越し先も教えないで行っちゃったから。
ニノと交わした約束は守れそうにないかも。ごめんね、許して
ずっと大好きです
約束は果たされない