ぽすん、背中に柔らかい物が当たった。いや正しく言うと、私が柔らかい物に背中から倒れたんだ。柔らかい物、なんて白々しい。
私の視界の中には健二の顔と天井があって、私の手首は彼によってシーツに押さえつけられ自由が効かなくなっている


「けん…」
「昼間っから、アホか」


私に対して言ったのか、それとも自嘲なのか分からない彼の発言は私の眉間にシワを寄せた


「ねえ、ちょっと急すぎる」
「なにを今さら」


押さえつけられている手首がミシ…と音を立てた。逃がさない、と云う意味なのだろうか


「お前が、処女もろうてくれ言うて、ワシに頼んだんじゃろ」
「そ…それは、そうですけど」
「なにビビっとんじゃ 怖いか?」
「ん…まあ、怖い」






此処は彼の部屋。ちなみにおじさんは仕事でいない。二人きりだ

高校生の男女がこんな昼間から不健全なことを始めようとしているのには理由がある。それを知るには数分前まで遡らなければならない


数分前
「健二さあ、なんでいつも違う女連れて歩いてんの?あの子たちってセフレ?」
ベッドの上に寝転び、ポテトチップスを摘まんだのは私。上の言葉に深い意味はなく、なんとなくただ単純に疑問を持った故に発した言葉だ。それに健二はめんどくさそーーな顔で、誤解を招くようなこと言うな、と。

「べつに、勝手にあと着いてくるだけじゃ」
「でも寝たりしてんでしょ?」
「全員がそーゆうわけと違う」
「えー意外 寄りつく女全員シてんのかと思ってたよ」
「ワシにだって好みくらいあるで」


へーそうなんだー、と摘まんだポテチを頬張ると口内に塩味が広がる。健二は私に背を向けテレビをつまらなそうに眺めている
一応言っておくが、彼は私の男友達だ。彼氏じゃない。まあ男友達っていうよりも、親友と呼んだ方が私的にはしっくりくるな


「思春期ってやつ?」
「ん、まあ…そんなとこじゃろ」
「それって楽しい?」
「…は?」


楽しいか?なんて変な問いかけだと自分でも思った。うん、なんていうかさ、そのまんまの意味じゃなくって、


「エッチしたりすんのって、楽しいの?」
「……」
「ねえ、教えてよ」
「ま、まあ………というか、なに聞いとんじゃ ワシかて男じゃ、そーゆう話は女同士でせい」
「だって、私の周りみんな未経験だし、みんなそーゆうの興味ないっていうんだもん」
「……」
「別におかしいことじゃないでしょ?性に興味示すのって 友達はみんな破廉恥だとか言うけどさ、私はぶっちゃけ超気になってんだ ていうかシてみたい」
「……お前まだなんか?」
「うん、まだだよ」


えっ、みたいな顔で健二が振り向いた。なんだよ、バージンで悪いか

「お前の方が意外じゃろ その見た目でまだって…」
「人は見た目じゃ分からないってことね」
「……」
「ねえ健二」
「なんじゃ」
「シたい」
「…は?」
「てかシようよ 別に私のこと抱けなくないでしょ?」
「…な、に言って…」
「いや?」
「……お前本気か?」
「うん」


私の顔を一瞥したあといったん床を見下ろす健二は、ふー…と深いため息みたいな深呼吸をして立ち上がった。少しビックリした


「えっ、いっ今すぐ?」
「当たり前じゃろ」
「だってゴムとか…」
「持っとる」
「……ちょ、ちょっと待っ」


ベッドに上がろうとする健二を止めるべく立ち上がると、そのまま手首を掴まれ強い力で押し倒された



「けん…」
「昼間っから、アホか」


そして、冒頭に戻るのだ



「ねえ、ちょっと急すぎる」
「なにを今さら」
「……っ、」
「お前が、処女もろうてくれ言うて、ワシに頼んだんじゃろ」
「そ…それは、そうですけど」
「なにビビっとんじゃ 怖いか?」
「ん…まあ、怖い」
「……」
「……」
「最初は皆、そんなもんじゃ」



息と純真がつまる
その行為自体に対した意味なんてないんだ


「…い、っ…た」
「力抜けアホ」



とりあえず、そんなにいいもんじゃないってことだけは分かった


mae tsugi