「ねーヨーザン」
「なに」
「オレさ、好きな子出来た」
「……………ふーん」
「え!反応うっす!もっと興味持って!興味!!」
「今、勉強してるから静かにして」
「冷た!ひっど!友達なら相談乗ってくれたっていーべ!?」


夜の自由時間、ヒョウが僕の部屋を訪れた。
ヒョウ無駄にうるさくするし、僕も今日やった数学のところ復習してたから出来れば部屋に入れたくなかったけど、滅多に見ない切実な顔して「オレの話し聞いてくれや オネガイ」なんて言われたもんだから仕方なく部屋へ入れてあげた

「で、誰その、好きな子」
「おっ聞くのかい!?聞いてくれるのかい!?」
「いいから言って」
「…C組の、…やっぱ恥ずかしい」
「……」
「……」
「僕寝るね おやすみ」
「待ってよ!ねえ待って!」
「おやすみ」


バタン。ヒョウの背中をぐいぐい押して部屋から追い出した。ドアが閉まる数センチの間からヒョウの涙目が見えたけど無視。「ヨーザン!開けて!」とドアを乱暴に叩く音にイラッとして近くにあった筆箱を投げ当てたら音は止んだけどペンとかが散乱した、はぁ


不破くんの
告白大作戦



翌日

「鷹山!鷹山!」
「聞こえてるからセーター引っ張んないで」


ヒョウに思いっきり引っ張られたセーターは見てられないくらい伸び切っている。そんな僕のことなんてどうでも良いのか、ヒョウは渡り廊下から身を乗り出して、下で集まってる女の子たちを指さした


「あの子!オレの好きな子!」
「……どれ?」
「ほら、あの子!いま耳に髪かけた子!」
「あぁ… ミョウジじゃん」
「えっ!鷹山知り合い!?」
「う、うん…まぁ中学一緒だし」


その言葉にピクリと反応したヒョウは、あの子彼氏とかいるの?なんて愚問を発する


「知らないよ、そんなの」
「えーだって中学一緒だって!」
「親しいわけじゃないし、興味もないもん」
「…ぐすん」
「ていうか、ヒョウ自分で聞けば?」
「……」
「僕に聞くより確実でしょ」


ぐっ…と苦い表情でナヨナヨとその場にしゃがみ込むヒョウにもう一つ質問する


「そもそもミョウジのどこがいいの?」
「良くぞ聞いてくれたっ」



それはオレが呼人に呼ばれて職員室に行った時の出来事だや。

「ヒョウ、お前ぶっちゃけヤバイぞ」
「な、なにが?」
「前回の中間の点数だ」
「マジデスカ」
「マジです」


バスケ部で唯一お前だけ赤点だ!と手を叩いて笑う呼人。妙にヘコむオレ。呼人の笑い声を背中に浴びて職員室を出ようとした。ガラッとドアを開け、廊下に一歩踏み出したそん時。オレの肩あたりに何かがぶつかって、すぐあとに短い甲声も聞こえた

「きゃっ」
「ごっごめん!」

慌てて、倒れそうになってる人の腕掴んで大丈夫?と支えれば、びっくりしたー!なんてオレの問いかけに見合わないセリフが聞こえた

「あ、ごめんね ケガない?」
「いやオレより…」
「ああ!ケガしてんじゃん!」

オレのデコを見てびっくりしたその子はブレザーのポッケから絆創膏を取り出してきた。あの、アンパンがヒーローのアニメのやつ

「大丈夫?本当ごめん」
「いや、これは部活で…」
「部活?もしかしてバスケ部?」
「うん 今出来たケガじゃないべや」

なんだーびっくりしたよー、って照れ笑いする目の前の子。名前は?って尋ねれば「ナマエ 1年C組だよ」よろしくねヒョウくん、と柔らかく笑う。

そもそも身長的にぶつかって出来るような位置じゃないのに本気で自分がやってしまったキズだと思い込むあたり、ちょっと天然ぽいっ

あ、私急いでるんだった!と口にしたあとナマエちゃんはじゃあねヒョウくんと手を振って職員室に入っていった




「…可愛いじゃんっ」
「ま、まぁ」
「明るいし、いつも周りに人がいるっつーか…眩しいっつーか」
「ふーん まぁ分からなくはないけど」


でも眩しいからってずっと遠目から見てる気?と重ねると、ヒョウはじゃあどうすればいいんさっ、なんてヒョウらしくない返答。んーとりあえず…連絡するとか…コンタクト取らないと

「連絡先知らないダニ」
「……話にならないね」
「ゴメンナサイ」
「連絡先も知らないくせに、そんな騒いでたの?」
「ゴ、ゴメンナサイ」


なんだか肩が一気に重くなったような気がした。なんで僕が自分じゃない人の恋愛で気を病まないといけないんだ。でも他でもないヒョウが悩んでるし、まあ良いか…


「連絡先知らないなら、今聞いてきなよ 下にいるんだし」
「へっ?」
「話はそれからだね」
「ウ、ウン…」


じゃ、じゃあ行ってくるっ!と渡り廊下の手すりに足を掛け出すヒョウに開いた口が塞がらない

「な、なにしてんの?」
「え!連絡先聞いてくる!」
「階段で行きなよ ここ二階…」
「カンケーないっ!」


彼はヒョイっと宙へ待った。え、あれ…と下から女子たちの声が聞こえて、僕が下を見ると同時にヒョウが着地した。


「え、え!君大丈夫!?今飛んだよね!?」
「ケガない!?」


ヒョウに駆け寄る女子たちを尻目に、ヒョウが恋い焦がれているミョウジはただ唖然と立ち尽くしてる。自分を心配する声なんててんで無視。ヒョウの視界にはミョウジしか見えてないみたいで、一直線にミョウジへと歩き出す


「な、なにか?」
「……」
「…あのー」
「付き合って下さい!」
「へっ!?」


え!?っと言ってしまった。付き合って、ってヒョウどうした


「あ、間違えた!付き合って下さいっ!」
「……?」
「あああまた間違えた!れっ連絡先教え…」
「いいよ」
「へっ?」
「私で良ければ、末長くよろしくお願いします!」


きっと確信犯!





「なんで僕を忘れるかな…」


mae tsugi