風邪ひいた。
季節が変わって間もなく。
ほんの少し暖かかった秋もマッハでどっかいっちゃって、さいきん一気冷え込んだ。
冬だ冬、冬がくるんだ。さむい、さむすぎる。朝起きたときとか半端なく寒い。布団から出れなくて、この前なんて一限さぼっちゃったよ。これはヤバイと思って、そっこー電気屋さんに行って、その店一押しのオススメストーブを買ったの。わたしストーブの暖かさが一番好きだからさ。どうせ買うならオススメ買いたいじゃん?奮発したんだよ。
でさ、ストーブの暖かさに酔いしれすぎて、アイスとか食べちゃったわけ。コタツでみかん、みたいな雰囲気で!ストーブでアイス食べちゃったよ!そのあとソファで寝たの。まぁストーブついてるし、布団とかいらないだろうと思って、上に何も掛けないで熟睡したら。
「風邪ひいちゃったの」
「言わんこっちゃない」
「ストーブずーっとつけててさ、わたしが寝てる間に石油がなくなったの」
「……」
「ストーブ消えちゃったせいで風邪ひいたの」
「ストーブのせいにしたらアカン。かわいそうじゃ」
「うーん…」
てかわたし、毎年この時期は風邪な気がする。いや、確実に冬なりたて風邪ひいてるわ。
『風邪ひいた』
昼前にけんじにメール送ったら、30分でうちにやってきて。
「風邪、わるいんか?」
第一声と共にいろんなものが入ったコンビニのビニール袋を渡された。
「いや対したことないけど。けんじ学校は?まだ昼だよ?」
「ワシだけ昼で終いじゃ」
「なわけあるかよ。もしや、さぼってきたの?」
「聞こえ悪い物言いじゃの。さぼったんと違う。病人の介護せなアカンから、早退してきたんじゃ」
ビニール袋の中には、熱さまシートやらポカリやら、なんだか風邪というより発熱に効きそうなものが入っていた。
「もう。たかが風邪なんだから、なにもこんな買ってこなくったって…」
「別にええじゃろ。ワシの勝手じゃけ、ほっといてーや」
「うん…まぁ、ありがたく頂戴するよ」
「……はよ治せ、お前いないと学校退屈でしゃーないわ」
「がっ、がんばります!」
「そもそも自己管理できてへんから、風邪なんか引くんじゃろ。お前のことじゃから、腹出して寝てたんと違うか?」
「うお、半分正解してる。正しくはねー…」
冒頭に戻る。
「けんじ、喉乾いた」
「ほれ。ポカリ飲め」
「はい、ありがとう」
ベッドに寝っころがるわたし。床に座ってベッドに寄りかかってるけんじはゲームをしてる。
わたしの視界は、綺麗に編まれたコーンロウと、その奥に格闘ゲームの画面が見える。
「ねぇーけんじ」
「なんじゃ」
「わたしね、風邪治すのやめる」
「は?」
唐突なわたしの言葉に、ゲームに夢中だった顔が勢いよくこちらを向く。
「だって。ずっと風邪だったら、健二ずっと看病してくれるじゃん!だから風邪治すのやめる」
「なにを言い出すかと思えば………」
呆れたような声色で、健二はわたしの頭を撫でた。健二の手あったかくて好き。
「あんな、看病っちゅーんは治すんが目的でやるんじゃ。治らんとわかってるもんをわざわざ看病するほど、ワシは暇じゃないけぇ」
「えー!ケチ!」
「誰がケチじゃ!」
パチンとおでこを叩かれた。
いま丁度、あなたの手あったかくて好き〜とか思ってたのに容赦ねぇなアンタ!
「……じゃあさ〜」
「…?」
「頑張って治すから、また風邪んなったら看病しにきてねー」
「おー。何度でも来ちゃるワ」
「…絶対?」
「絶対じゃ」
「わかった!わたし、はやく風邪治すよ!」
「もう寒いけぇ、体冷やさんようにせんと。治るもんも治らんからな」
「ふはっ!けんじ、お兄ちゃんみたい!」
そうやって笑ったら、鼻をつままれた。
「ナマエはうるさくて我儘で、赤ん坊みたいじゃの」
「なんだとこんにゃろー!」
むかついたから、お返しにほっぺを思いっきりひっぱってやった。
健二の顔がやたらおかしくて笑った。
とっておきの良薬(風邪っぴき彼女と、意外と面倒見のいい彼)「そういえば、風邪は人に移すと早く治るって、ナベさんが言ってた」
「…あんさんに移したら喜ばれそうじゃけ、試しにやってみぃ!」
「なんで?健二がもらってよ!」
「嫌に決まっとるじゃろ。お前の風邪、しつこそうじゃ」
「…お前の風邪、ぜんぶワシが引き受けちゃる!さぁ、移せ!ちゅっ!みたいな優しさはないのか」
「…自分で言うのもなんじゃけど、ワシ、そんな気持ち悪ないで…」