右足の靱帯切ってから一ヶ月くらい経った。
「――… と」
『学校でも簡単にできるリハビリ教えてあげるわ。朝礼とか立ってするコト全部、右足だけでやんなさい。かかしみたいに。できるだけ長い時間キープすること。それと風が強い場所や人目の多い場所でやると効果的よ』
「なるほど。最初バカにしとったが…バランスをとるだけで前後左右の筋肉使っとるのがわかる」
「けーんー」
「……」
「おーい!けーんー」
「…!」
かかしになるのに夢中で、下から聞こえた声にハッとした。
「そんなとこでなにしてんのー」
はしご使ってワシのいるところまで登ってきたソイツは、ワシの彼女。
「久しぶりじゃの。連絡かえってこんから、死んだ思うてたわ」
「えーなにそれ酷すぎ!」
ワシが怪我して会いにいけんかったのと、コイツがあまり学校に来ないせいで、おたがい顔をあわせるのは一ヶ月ぶりくらいじゃったかの。
おまけに連絡すら、ここ一週間は途絶えていた。ホンマ、気まぐれなやつ。
「ケータイ止まってたんか?」
「うん支払いすんの忘れてて。健二はどうなのさ?足の具合。見たところ治ってるみたいだけど」
「まぁ…ぼちぼちじゃ。この前あんさんにムリヤリ折り曲げられて泣いたワ」
「やっぱり!千秋さんあたり絶対けんじの足折るって思ってた!」
「効果音出たで。くにゃりって」
「なにそれちょうおもしろい!やっぱ千秋さんは期待を裏切らない人だよねー」
「笑い事ちゃうわ!」
久しぶりに聞いた笑い声に安心した。メールで連絡とったりしてたけど電話はナマエが忙しうて出来んからの。ホンマに声聞いたん一ヶ月ぶりじゃ。
「元気そうでなにより…。靱帯切ったワシが言うのもおかしな話じゃけんどの」
「けんじもね。実はすごく心配してた。もう一生バスケ出来ないとかそーゆう怪我じゃなくてホント良かったよ」
「なんじゃさっきまで笑い飛ばしてたヤツが。ツンデレか!」
「へへっ」
ワシが思ってた以上に、ナマエには、心配かけてしもうたみたいじゃの。
「はやく治しなさいよ!空くんたち、待ってるんでしょ」
「まぁの。けど…ワシがおらんくても、代わりはおるよ」
「なにそのいつになく後ろ向きな言葉」
和桜の眉間にしわが寄った。まぁまぁ、そんな怖い顔すんなて。
「…七尾がこの前、自分はみんなにとって必要な存在になっているのか不安だって嘆いてたワ。けどの、よくよく考えたらワシもたいして変わらんかった」
「……」
「治るにしたって大事なときに間に合わないんじゃ話にならん。そんな選手が必要とされるワケがない」
「……」
「先が思いやられるで」
自分のヒザに視線を落としたら、頬に冷たいモンが当たった。
「…なっ「それでもアンタは絶対、治すんでしょ。知ってるよ」
「……んじゃこのへなちょこパンチは」
「やけに弱気だから、気合い入れなおしてあげてるの。千秋さんのだけじゃ、足りなかったみたいね」
「……、」
「チームに必要かどうかは、自分で決めなさいよ。アンタそういう人間でしょ」
「……」
「その弱気な顔、気持ち悪いほど似合ってないわ」
「……ほーか」
パンチというには軽すぎるソレにふっと笑いはしたけど、気合いは恐ろしいほどに入れられた。
あんさんに足折られて涙流しながら、もう怖いモンないで!と言った自分を思い出した。ナマエにこんだけ言われて、もうホンマに、怖いモンないで。どんな苦痛でも受けて立つわ。ワシはチームに必要な存在になっちゃる。
「死ぬ気で頑張んな!」
「オウ、頑張るわ…!」
グーチョップ!(いやそれただのパンチだから)「今度パンチの仕方教えちゃる」
「えーいいの?わたし強くなっちゃうよ?」
「痴漢にでもあったとき、あんなパンチじゃ倒せないからの」