「俺、お前のことが好きなんだ」
「…はあ」
「付き合ってほしい」

委員会で遅くなった放課後、体育館に向かう途中で違うクラスの男子に呼び止められた。話したこともない男の子、っていうか名前すら知らないんですけど、あなた誰なんですか

ちょっと来てと連れてこられた体育館裏は、それはまぁ暮れかけの夕日が程よく射すムードばっちりのスポット。きっと計画してたんだろーな、とか思ってたら冒頭のセリフを彼が言ったんだ

「ごめんね、そーゆうの興味ないから」

もちろん断るけど。







「今日タナカくんに告白されてたべ?」
「は?だれタナカ、私知らないわ」


練習が終わって皆が風呂に入ってる中、私は黙々と大量の夕食を作る。大変だけど、マネージャーの仕事だから仕方ない

「しらばっくれるでない!オレは見たんだべや」
「だから、マジ知らないって。ていうか摘むな」


最後の盛り付けをしてると後ろから手が伸びてきて、サラダのプチトマトを奪っていった。犯人は豹、いつも食堂に一番乗りしてくる。そしていつも摘み食いをする悪いやつ


「今日体育館裏でナマエに告ったやつ!そいつがタナカ!」
「…ああ、あの人ね」
「で?」
「で、とは…」
「オッケーしたのか?してないのか?」


野暮なことを聞くな、と言おうとしたのを引っ込めた

「するわけないじゃん、そんなの」
「えー!なしてー!イケメンで有名だべタナカくん!もったいねー」
「……」

ほんとこいつにはデリカシーってもんがないのか、人が聞かれたくないことを臆せずズバズバ聞いてくる。


「ナマエさー、なして彼氏作らないの?あ、好きなやついるとか?」
「…あんたねー」
「いっつも!断ってるべ、告白」
「……」
「オレいつも倉庫でサボってるから、ナマエが体育館裏で告白されてんの全部知ってるんだよね。ほら、窓開いてるじゃん?丸聞こえだべ!」
「…はー」

するつもりのなかった溜め息が出る。

「……」
「なしてなして〜」
「……」
「なしてなして〜」
「…面倒なの、付き合うとか好きとか」
「……面、倒?」

椅子に座ってふんぞり返る豹は今にも後ろに倒れそうなのに、ちゃんとバランスを保ってるのは運動神経が良いせいか。私の吐き捨てたセリフに、サーカスのごとく彼のイスは在るべき位置に戻るでもなく、後方に倒れるでもなくピタリと止まった。


「干渉されんのもイヤだし、喧嘩とかだるいし、第一好きでもないのに付き合えないでしょ」
「まーそうだけど、なんか意外」
「…なにが?」
「ナマエってチョー恋愛してそう、ってか単純にモテてるから恋愛好きそうってゆーオレの勝手な想像」
「豹が私のこと知らなさ過ぎるのよ」


完成した夕食も並べおわり豹に視線を移すと、ヤツはじーっとこっちを見ていた。


「じゃあさ、ナマエの彼氏の条件教えてや」
「なんじゃそりゃ」
「いーから!興味あるんさ!教えてや!」
「条件って言われてもなぁ……」


考えるふりして視線を外した。間接視野で目を輝かせている豹が見える。ちょっと、熱視線やめてよ

「んー…面倒くさくない人」
「うんうん」
「あとはー…自立した関係になれる人」
「うんうん」

ってまだ聞くか


「…自由で、猫みたいな人」
「うんうん」
「頼れる人」
「……それってもしや」
「……?」
「オレぴったりだべ!」
「はあ!?」


ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった豹は、私にグッジョブのポーズをとった。唖然する


「いやあ、もしかしたらそうなんじゃないかなーと思ってたんダニ!」

「ちょ、ちょっと待って!私なんか変なこと言った!?」

「ナマエの彼氏を選ぶ条件に、オレぜーんぶ当てはまっちゃう!これ運命!!」

「へ?当てはまってんの三つ目だけじゃん!」

「つ・ま・り!ナマエはオレが好きなんだべ!?」

「ばっばか言うんじゃないよ、私一言も言ってな…」
「オレは好きだけどね」


時が止まった。え、なにこの展開。急じゃありませんか?

豹は満足げな顔して鼻高々してるし一体なんなのこれ、私どうすればいいの


「それは…つまり…」

「告白に決まってるべや」

「……」

「体育館裏とかベタなの嫌いそうだから、意外なシチュエーション狙ってみましたー!!」


イエーイ!なんて一人で盛り上がってて着いていけない。ていうかこんなの初めて、こんな、ドッキリみたいな告白


「…はは、なにそれ反則でしょ」

「ずっと好きだった!オレなら、ナマエとお似合いだと思うダ二!」

「……」

「ナマエがオレのこと大好きになったら、付き合ってクダサイ!」


別に豹のことは好きじゃなかったし、仲の良い男友達くらいにしか思ってなかったけど、この告白にはやられた。

「まじか…」
「惚れた?」
「ちょっとね」

ぎゅー!っと力強く抱きしめてきた豹の腕の中で、風呂上り独特の石鹸の匂いにドキっとする。なんか急に愛おしくなって、付き合ってもいいかなーなんて思う私がいた

「うおっしゃー、オレナマエに好きになってもらえるように頑張っちゃお!」


でも、それはまだ言わないでおく。私のために頑張るらしい豹をしばらく見てみたいから


mae tsugi