神奈川に引っ越してきて暫く経った頃、彼女ができた。同じ菊川高校の女の子。転校初日から可愛い子おるなーと思って俺から声かけたら、それがナマエやった。

ナマエはバッシュ店でアルバイトしていた。「俺ストリートバスケが趣味やねん」言うたら「いいとこあるよ」と教えてくれたのが、空たちと初めて会うたあの場所や。もともとバスケ好きやし、ナマエがそこでバイトしとるから学校以外の時間は殆どそこにおった。

気持ち悪いねんけど、俺ナマエにベタ惚れやん。しゃーないって!ホンマ可愛いねん!昭人でええよ言うてんのに恥ずかしがってニノって呼ぶし、毎日弁当作ってくれたり、俺がバスケしとるとこ見てカッコいい言うてくれんねんで?可愛いやろ?


「今度、バスケの試合あるねん」
「あ、本当?じゃあ応援行くよ!」
「おう ナマエが来るんなら負けられへんやん!」
「うん!頑張ってね!」


ナマエが俺のこと好きなんは言葉にしなくても伝わってくる。こう見えても俺らラブラブやん。だからそんなに気にしないようにしとるつもりやけど、俺にも心配事がある

「ミョウジ〜 ちょっとここの問題教えてくれ!」
「あーうん、いいよー ごめんねニノ、またあとで」
「…おー」


まあ、簡単に言うてまうとナマエはモテる。そりゃ当たり前やんな、あんな可愛い子どこ探してもおらんもん。料理できるし、勉強できるし、スポーツはあんまやけど鈍くさい動きがまたいいねん。告白も何回もされてきたみたいやし、ストリートに来る奴らからも結構声かけられるらしい。そんな下らんこと気にしとるって男としてどうなん!?って思ったりもするけど、でもナマエのことになると妙に心配になってまう

束縛なんてしたくないから何も言わへんけど、やっぱり異性と一緒におるとこ見るのは嫌やん。いや俺のこと好きなんは分かってるで?











モンスターバッシュ当日、約束通りナマエは応援に来てくれた。


初戦は意外とすんなり勝てたけど、二回戦は前大会ベスト4のチーム相手や。さすがに苦戦した
タイムアウト終了間際、円陣の掛け声が響く中でナマエの声が聞こえた。ホンマは試合に集中せなアカンのやけど、どうも聞き捨てならない会話や思うて耳を済ました


「ストリートんとこのバッシュ店におったじゃろ?」
「あ、もしかしてこの前の…」


反射的に上を見上げる。ナマエと、その隣におるのはボンバヘッ……
なんか話しとる。


「アンタんとこで買うたバッシュ良かったで」
「本当?良かった!」
「悪かったのー、無理言うて」
「いいえ全然!すごい似合ってたから」
「おぉ 嬉しいわ」


空たちとバスケしとった時ボンバヘッが借りていたバッシュの話らしい。ボンバヘッ、あのバッシュ買うたんやな。ナマエが売ったんかな、知り合いみたいな会話や


「アンタ菊川じゃろ?ベンチにおらんくてええんか?」
「あ、私マネージャーじゃないの 普通に応援来ただけだから」
「応援か 羨ましいのう」
「? 羨ましい?」
「アンタみたいなべっぴんが応援来てくれるんじゃったらモチベーション上がるじゃろ」
「…べ、べっぴんって」
「ええのう」
「…健二くんバスケ上手くてかっこいいんだから…応援なんていっぱい来るでしょ…?」
「んなことないわ」
「意外〜 モテそうなのに」
「アンタは、見れば見るほどべっぴんじゃのぉ」
「べ、べっぴん言うのやめようか… もちろん健二くんのことも応援するよ、ニノの友達だし」
「ホンマか?」
「うん」
「じゃあ次の試合勝ったら連絡先教えてくれや」
「わ、私の…?」
「他に誰がおるんじゃ」



なっ…なに言うてんねん!ボンバヘッ!俺のナマエにナンパか!?許せん、何考えてんねやアイツ!!


「二、ニノ…?」

カジさんに呼ばれても振り返る余裕すらない

「おい、ボンバヘッ」
「……なんじゃ?」


俺の呼びかけにボンバヘッとナマエが下を見下ろした。「あ、ニノ」と言いかけたナマエにニッコリスマイル見したあと、ボンバヘッを睨んだ


「自分、それはアカンで」
「な、なにがじゃ?」
「アンタが連絡先聞き出そうとしとるんは、俺の彼女やん」
「…あぁ、そうなんか それは悪かったのう」


思うた以上に素直なボンバヘッやけど、当の俺は納得せん。だってナマエが、ナマエがボンバヘッのことかっこいい言うてたやん!ナマエがかっこいい思うてええのは俺だけやねん!


「ナマエー」
「ん?」
「俺のお願い聞いてくれへん?」
「…お願い?」
「この試合勝ったら、ボンバヘッのことかっこいい言うたの訂正してくれ」
「…い、いいけど…てか別にそんな深い意味は…」
「ほな約束やで!」


君の世界で一番じゃないと


「よォっ…しゃあ!!!!」
「勝った…勝ったぜぇ!!!!!」

得意げにナマエを見やると、ナマエはめっさ可愛い笑顔で俺んとこ駆け寄ってきた

「ニーノー!」
「ナマエ、俺勝ったで」
「おめでとう やっぱしニノが一番かっこいい!」


(だって俺、王子様やん!)

mae tsugi