今日はわたしの誕生日だ。
しかし、このことを覚えてるのはきっと、幼馴染のにゃんころだけだろう。





むかしから、いろんな人に誕生日を祝われるのに抵抗があった。たいして仲も良くない子に「おめでとう」とお祝いされたところで、わたしはどんな反応をすればいいんだ、と思う。そして、プレゼントなんてもらった時には、その人の誕生日お返ししないといけないじゃん面倒くせ、などと可愛さの欠片もない思想を持っている。
一応言っておくが、別に誕生日が嫌いなわけではない。もちろん誕生日が休日だったら嬉しいし、自分への誕生日プレゼントとして、ショッピングに出かけたりする。
ただ、他人にたやすく祝われたくないのだ。

こんなことを思い続けていたからか、誕生日に連絡をくれたり、直接会いにきてくれる人なんてごく少数になっていた。そして、年々減っていってる傾向にある。

「おはよーナマエちゃん!」
「おはよー」

今朝も、登校したわたしに挨拶をしてくる人はいるが、誕生日に触れてくる人は誰一人いない。

下駄箱で靴を履き替えながら、小6のころの出来事を思い出した。
あの時は、豹が全クラスに誕生日当日、わたしの誕生日が今日であることを言いふらしたんだ。
「えーそうだったの?!」「ナマエちゃんおめでとう!」「言ってくれたらプレゼント用意したのに!」などと、ありがた迷惑な言葉が飛びまわった。わたしの脳内はいろんな人の声でお祭り騒ぎになった。
あとで豹に咎めにいくと、わたしは毎年誕生日をつまらなそうに過ごしてるから沢山の人に祝ってもらえれば喜ぶ、と思った彼なりの気づかいだったらしい。
それはいらない心配だと伝えると、その翌年から今まで、豹は誕生日になってすぐ、おめでとうメールをくれるようになった上、毎年だいたい22時くらいに訪れては「ケーキ買ったべ!一緒に食べよーや!」と言って、家に上がりこんでくる。そして、プレゼントを渡して帰っていくのだ。

わたしはそれがたまらなく嬉しくて、毎年豹が来るのを楽しみにしてる。








今朝のHRも、授業中も、休み時間も、そして放課後になっても、わたしの耳にお祝いの言葉が入ってくることはなかった。今日は掃除当番もないし、バイトも休みをもらったし、さっさと家に帰ってゆっくりしようと思い、足早に下駄箱に向かう。履き慣れたローファーをトントンとして帰路についた






自宅でお菓子を食べ、ジュースを飲み、ゲームをしたあと漫画を読む。飽きたら寝る。私にとってこれ以上有意義な誕生日の過ごし方なんてないだろう
この通り私は漫画を読んでいる途中で見事に眠りこけてしまったようだ。気がついたら部屋は暗くて、消し忘れたテレビだけがチカチカと光っていた。けっこう寝たな

携帯をひらく。
寝起きにはキツイ液晶画面の日付は次の日になっていた。

(あー誕生日おわってる)

別に一通りやりたいこともやったし(いつもの休日と変わらないけど)不満なんてないがたった一つだけ、心残りというか残念に思うものがある。豹が来てくれなかったことだ。今年も絶対きてくれると思い込んでいた分、ショックが大きい。

(やっぱりバスケで忙しいのかね)


豹もこないし、明日(日付かわったから今日か)も学校だし、こんな時間に起きていても仕方ないし、使い果たした眠気をがんばって引き出すことにした。










次の日、けたたましいアラームで起きる。どうやら、わたしの眠気は尽きていなかったらしい。

そしてわたしは朝にとても弱い。
ちょっとだけ開いてる目は閉じてるも同然。数分ぼーっとしていたら、覚醒してくれたから良かった。


「………」

ふと。
隣に気配を感じ、振りかえる。


「……は…?」

なぜか、豹がいた。

「…え、ちょっとまって…なんでいるの?」


寝ているんだから、聞いてないのはわかってるんだけど、それでもあまりの驚きで口から言葉が出てしまう。


「……むにゃむにゃ…」
「…むにゃむにゃ言ってるし」


とりあえずこいつを起こさなければ。ゆさゆさ、意外とガッチリしている肩を揺さぶった


「ひょう」
「……」
「ひょう!」
「……ぐっもーにん…ナマエ」
「ぐっもーにん」

寝癖でぼさぼさのオレンジ髪が寝起きに毒だと思った。


「なんでいるの?」
「なんでって、ナマエのバースデーだからダニ!」
「…どうやって入ってきたんだ…猫じゃあるまいし」
「どうやってって、普通に玄関からおジャマしたべや!」
「………マジ?」
「マジ!無用心だべ鍵あけて寝るなんて!」


ということは、この人夜中に勝手に家に忍び込んだ上、更にわたしの布団に入って寝たってわけか。

「ずうずうしっ!」
「ぎゃっはは!サップラ〜イズ!びっくりした?びっくりしたべ!?」
「うんとてもびっくりした」
「棒読み!オレがんばって寮抜けてきたのに!」
「寮抜けてきたの!?怒られない?」
「大丈夫さ!ちゃんと許可とってきたから!」
「…それ抜けてきたっていわなくない?」
「いや、正しくは…寮を抜け出したいって呼人に頼んだらダメだって言われたから、秘密で抜けてきた!」
「…じゃあ、許可とってきたって言わないじゃん!てか呼人って誰なのさ」
「オレの学校の鬼顧問ダニ!」
「ほんとに大丈夫なのかよ…」
「もともと呼人がダメって言っても、ここに来るつもりだったべ!なんたって、ナマエの誕生日だかんな!」


無邪気に笑う豹を見てたら、なんだかこっちまで楽しくなってきた。

昨日までつまらなかった誕生日が、豹のおかげで特別な誕生日に変わる。


「へへっ、ありがと豹」
「どういたしまして!」


豹ってほんと予測不能。おもしろすぎる。

「プレゼントはオレね!ね!」
「えーやだカバンがいい」
「ひど!ナマエ鬼畜!」
「うそだよバカ豹だいすき!」


サプライズは盛大に!



「呼人、不破がいないんだけど」
「あーほっといてやれ、じきに戻ってくる」
「いいのか?」
「事情は聞いてる。いっちょまえにサプライズだと!」



「っいっきし!」
「風邪ひいちゃった?」
「誰かがオレのウワサしてるべや」


mae tsugi