「おっと」

ちゅ

「……」

「おっと」

ちゅ

「………なにしてるの」
「え、見たらわかるべさ。態勢が崩れたフリして、ナマエとキスしてんの!」
「………」
「あはは!待ってる時間ヒマだから、そのヒマな時間を有意義に過ごす最強の技!オレ天才!」
「………」



今日は豹とデート。バスケ部が珍しく午前練で終わったらしく、昼過ぎごろ豹から喜びの電話がかかってきた。



『ナマエ、デートしようや!』
『え、部活は?』
『これから鷹山が長野に行くらしくて、呼人はその付き添い!だからオレらは午前だけでおしまいだべさ!』


わたしも豹と会いたかったから、すぐ準備して待ち合わせ場所まで向かったら、あいかわらずド派手なオレンジの彼が待っていた。気のせいか、ウズウズしながら。


『ナマエー!』
『うおっ』
『待ってたぜー!』


飛びつかれて、思いっきり抱きしめられた。そのあとドコイク?って話になったから、とりあえずご飯食べようってことになったのさ。近くのファミレスは休日のせいか、けっこう混んでいた。




「おっと」

ちゅ

「………」

「おっと」

ちゅ

「………」

「おっ「もうわかったから!」



店の入り口に置いてある紙に名前を書いて、外のイスに座って待っていると豹がヘンテコなことをし始めた。



「あのさ、豹。すっごいうっとおしいんだけど!」

「なに?オレの愛を感じた?」

「うっとおしいからやめてって言ったの」

「え、嬉しいからもっとやって?」

「…もう……」

だめだこいつ。会話できねぇ




とりあえず、このキス攻撃をどうにかせねば。





「豹はわたしのことが大好きなんだね」

「あったりまえじゃん!ナマエ以外キョーミねーもんっ」

「あらかわいい。わたしも豹のこと好き」

「…え」

「ん?」

「え、え。なになに急に。普段そんなこと言わないべナマエ!もしかして何か企んでる?!」

「なーんにも。けどね、そのうっとおしいの止めてくれたら豹のこともっと好きになる」

「ままままじか!」

「うんマジ」

「そそそそっか分かった!やめる!」

「よしよしイイ子だ」




わたしの言うことを素直に聞いちゃうなんて、ほんとかわいい。あなたの素直な性格のおかげでキス攻撃を回避することができたよ




「2名様でお待ちの不破さま〜」


「あ、呼ばれたよ」

「腹減っちゃったや」



「お席ご案内いたしますね〜」



呼びにきたウエイトレスさんについていく。


席までの途中にけっこう段差のある店で。ひっかかって転けないようにしよう、とか思った矢先に彼はやってくれた。



「おっ、わ」



あくびなんかして、前見ないから。



「んなっ」
「っぶねー!びびった!」




前を歩いていたわたしに全体重をかけてきた。倒れそうになってる豹を、なんとか支えて持ちこたえる。あれれ、わたしイケメンじゃね?ていうか豹くんは普段あんな運動神経いいのに、なんでこういう時に限って。



「い、いい今のはワザとじゃないべや!」

「うそ!ぜったいワザと!」

「ワザとじゃないって!」

「じゃあなんで思いっきり抱きつくの?ご丁寧に腕までまわしちゃってさ!」

「ごめんて!マジそんなつもりじゃないべ!ほんとごめん!」




ちょっといじわるするつもりが、豹が本気で謝ってるから笑こらえるのに必死だった。



「てい!」

ぐいっ

「えっ、…」

ちゅ


「…は?」

「あーナマエキスしたべ!今オレにひっぱられるフリして唇奪ったべさ!あー!」

「え…は、ちょっ意味わかんないから!フリとかじゃなくて確実にアンタが引き寄せたでしょーが!」

「オレにはうっとおしいとか言っておきながら、自分はまんざらでもないじゃんか〜!」

「ぷっちーん!豹のくせに、生意気!むかつく!」




ぎゃあぎゃあどすぐほぎゃあぎゃあぱちんいってーぎゃあぎゃあ



「あ、あのーお客さま…」



ぽかぽか叩いていたら豹に抑えられて、後頭部に手をまわされた。


「だってナマエとキスしたいんだから、仕方ないべや!!!!」

「なっ、なにする…」


ぶっっちゅーー!!!


ウエイトレスや、他の客なんて気にしてませんよみたいな豹の熱いキスに、わたしたちは店を出ざるを得なかった。


この口が悪いんです!
(そんな言い訳あるか!)



「もう!せっかく並んだのに!バカ豹!」

「オレが悪いんじゃねーもんっ」


mae tsugi