ヒョウに聞いたことがあるんだけど、アメリカじゃバレンタインは女性が男性にあげるだけでなく、男性からも女性にあげるんだとか。そして日本では当たり前のように存在するホワイトデーが、米国には無いらしい。


「じゃあヒョウは、アメリカに住んでた時バレンタインあげてたの?」「んん、まあ好きな子にはあげてたべさ」「へー、なんか変な感じ。男があげるのって」「そっかあ?ホワイトデーの方が変だべ」


ちなみに今も彼女とは、バレンタインは交換こしてるダニ〜、と笑ったヒョウを思い出して屋上のフェンスに寄りかかった。


自分は恋愛とか、そもそも人間関係に不向きで、彼女が欲しいと騒ぐクラスメイトたちが馬鹿馬鹿しくて仕方なかった。縁のない存在、僕にとって興味もないし必要もない。
そう思っていたけど、世の中はまだまだ分からないことだらけらしい。




宛先: ナマエ
件名:

屋上来て、今すぐ






かじかむ指を、携帯と共に制服のポケットに突っ込む。少しだけ、ほんの少しだけ、左胸がドキドキしてる。


息を吸った。ふう、やっぱりまだ寒いな。



「ようざんっ」
「急にごめん」
「ううん、大丈夫だよ」


屋上の扉が古臭い音を立てて開いた。ちょっと息の上がっているナマエが僕の方へ駆け寄る。


「どうしたの?」
「うん、大した用じゃないんだ」


今日はナマエと過ごす二度目の白い日。



「ナマエ、バレンタインはチョコありがとう」
「どういたしまして!あ、もしかして呼び出したのってお返しか何か!?」
「うん、ホワイトデーのお返し」
「わー!ありがとうー!」


丁寧にラッピングされた箱を渡した。自由時間にヒョウと寮を抜け出して買ってきた物だ。峯田が食堂で何か作ってたけど、呼人につまみ食いされて泣いてたのを見て、買おうと決めた。

ナマエの小さく細い手に似合う箱。無邪気に笑うナマエを見て、渡して良かったと去年と同様に思った。


「来年からはホワイトデーお返ししないよ」
「え、えっ…なんでー!」



「来年からは2月14日に交換こ、ね」


白い日
「なぜ交換こ?」「ヒョウが言ってた、アメリカだとバレンタインは交換こなんだって」「へー!アメリカンスタイルっつーやつね?楽しそー!」「僕、来年のバレンタインはマフィン食べたい」「じゃあ鷹山は生チョコ作ってよね!」「うん、がんばる」

12.03.14

mae tsugi