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「う"ー…」
すっかり寒くなった季節に、暑かったときのあの煩わしさはどこへ行ったんだろうとハテナ。
「さ、さむい…」
「そうかぁ?」
隣を歩いている豹はさして寒くはないようで、マフラーもしてなければ手袋もしていない。私とは大違いだ。
けれど周りを見渡してみれば、私と同じようにマフラーと手袋で装備している子は結構いるので、自分だけがこんな寒いと思っているのかという不安は消えた。
登校は家から学校まで10分くらい。朝練がない朝は、8時10分に家を出る。
学区の中でも近場に住んでいる私たちは、登校ラッシュより少し早く、けれど全体としては遅めに学校に着く。
こんな寒いなら瞬間移動の能力を身につけたい、と豹につぶやいたら「悟空か!」と突っ込まれた。ちなみに悟空はアメリカでもかなりの人気者だった。
「おっはよぅ」
せめて武空術だけでも…と本気で考えていると、ぽんと肩を叩かれて豹じゃない声が聞こえた。
「あ、おはよう」
「寒いねー今日」
振り返ってすぐにサーモンピンク色のマフラーが目に入る。視線をあげると満面の笑みの、友達が。
「いつもこの時間?」
「うん、アヤちゃんは?」
「今日はちょっと寝坊しちゃって…」
同い年のアヤちゃんは、部活も同じバスケ部。
高い位置に結ったポニーテールがトレードマークだけど、最近は結ばず髪を下ろしていることが多い。
「最近ポニーしないね」
「寒いんだもーん」
緩いウェーブがかった黒髪をいじって、アヤちゃんがおちゃらけたように笑った。つられる。
隣で豹がダレ?みたいな顔をしている。
「ナマエの友達のアヤでーす」
「アヤ?」
「うん、アヤ」
「バスケ部?」
「そだよ。よくナマエとペア組んでるよー」
「へえー」
アヤちゃんとは最近急速に仲良くなったので、豹が知らないのも無理はない。
別のクラスなので校舎ではあまり話さないし、部活中は意外と豹はバスケに集中しているようで、女バスのことはあまり見ていない。
今日がいわゆる初めまして。
「いつも仲いいね二人!」
「幼馴染だからね」
「いいなー幼馴染、アタシも幼馴染ほしかったー」
アヤちゃんは楽しいことが大好きらしく、いつでも笑顔で明るい。
たしかに、アヤちゃんと一緒にいるときは笑顔が多い気がする。
「じゃ、アタシ先行くねー」
しばらく三人で並んで歩いていたけど、急にアヤちゃんが早足になって先に歩いていった。
「一緒に行かないの?」
「今日、日直だから職員室寄らなきゃなのー」
「そうなんだ。じゃあ部活でだね」
少しずつ遠くなって行くアヤちゃんを、豹と二人で意味もなく見ていると、豹が口を開いた。
「あの人フォワードだっけ?」
「そうだよ」
「ああー、居た居た。ゲームんときマンツー付いたことあるっ」
「上手だよね、アヤちゃん」
「まあ……フツー?」
豹は冷たそうな両手をポッケの中に突っ込んで、そう言った。
12.11.06