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「Trick or treat?」
「Happy Halloween!」
「イェーイ!」
昨日の学校帰りにナマエと寄った100円ショップには、面白いほどのハロウィンアイテムが置かれていて。
チューイングキャンディやらグミやらの詰め合わせを一つと。
俺はスクリームの面を買った。ナマエはカボチャのお面を買ってた。
ハロウィンパーティーの仮装はカボチャに限るらしい。
リビングのソファで二人、お決まりのセリフを言ってお菓子をもらい、それを食べるというエンドレスなやり取り。
「も、お腹いっぱい」
「じゃ、やめるべっ」
なにが楽しいんだ?と父さんはテレビを観ながらビール缶を傾けたけど、俺らにはビールの良さの方が分からない。
テーブルに散乱したお菓子の包み紙を大雑把に掴んでナマエはゴミ箱に向かう。俺は残り数センチのポカリを飲み干した。
「ふふ。お父さんと豹、そっくり」
「…なにが?」
「飲み方がそっくり、ほんと」
キッチンでナマエが笑っている。
俺と父さんは同時に首をかしげて「ほら!」とナマエはまた嬉しそうに笑った。
「なしてこっちは、外まわらないんかね?」
「ねー」
こっちに来て驚いたことがいくつかあったが、その中でもハロウィンにご近所へお菓子をもらいに回らないということには特にびっくりさせられた。
「しっとりやりたいんじゃない?」
「しっとり、ねぇ…」
こっちの感覚は未だうまく掴めないことがある。まず、このしっとりとしたハロウィン。
あと、箸のむつかしさ!あとあと、上下関係へのうるささっ!
ナマエは上手く適応してるみたいだけども。まあ、もともと器用だからなー。
「このお面は取っとこう」
ソファにほっぽり投げてあったお面を手にとって、ナマエはスクリームとカボチャを交互に顔に当てた。
「金髪スクリーム!」
「豹が付けたらオレンジスクリーム」
「俺がカボチャ付けたらかなり自然でね?」
「あ、ほんと。オレンジ×オレンジ」
ナマエが徐にポッケから携帯を取り出した。パシャ、と効果音が鳴って、すぐあとに向けられた画面にはカボチャが。
かなり自然にソファに座っている。
「これ待ち受けにする」
お面をかぶってるから表情は分からないが、声色が嬉しそうなナマエは、高速の親指で携帯を操作している。
「じゃあ俺もっ!」
ポッケから同じように携帯を出して、カメラを向ければナマエは視線だけを寄越して手元は携帯をいじったまま。
「名付けて、携帯をいじる金髪スクリーム!ぎゃはは!」
「なにそれー」
パシャパシャ、カシューカシュー。
二台の携帯からひっきりなしにカメラの効果音が鳴る。
お面だから表情が変わることなんてないのに、それでも飽きずにお互いを何枚も写して。
たいして変わらない写メを見比べて決めた最高の一枚は、お互い一番始めに撮った不意打ちのもの。
ってことで今の俺の待ち受けは、ブロンドヘアーのスクリームが携帯をいじってる姿!ぎゃはは!
12.10.22