063 (12/21)

ぱっ、と起きた。
流れるように時計を見ると午前九時。

「…ひょう?」

けして早くはないが遅くもない起床時間、寝起きの悪いはずの豹が隣にいなかった。
ベッドから出て、自分の部屋に戻る。ピンやゴム、部活で使うものを入れているケースからヘアバンドを取って髪をあげる。洗顔したあと、上のTシャツだけ着替えた。
一階に下りてリビングのテレビをつけたところで、玄関から音がした。
ジャージ姿の豹がスニーカーを脱いでいた。

「おはよ豹」
「はよー」
「どこ行ってたの?」
「んー?外!」

いつもは寝癖でボサボサの頭が、今日は抑えられている。
豹はジャージのポッケから携帯を取り出すと、そこに繋がれているイヤホンを抜いた。途端、爆音の洋楽が流れ出す。
豹は手際良く携帯をいじくって、それを止めた。

「…ランニングしてたの?」
「んーまあそんなとこだべや」
「起こしてくれたら良かったのに」
「気持ち良さそうに寝てたからさっ」
「そっか」

普段は私が大体先に起きるんだけど、時たま豹の方が先に起きていることがある。
珍しい、くらいにしか思っていなかったけど、もしかしてそういう日っていつもランニングしてたのかな?

「あ、そーいやあ、さっきやっつけておいたべ」
「やっつけた?」
「昨日のゴキブリ」
「え!本当に!?いたの!?」
「走り行く前にナマエの部屋入ったら、ちょうど目の前にいた!から殺しといたべさ!」

ありがとう。豹の手を握ってブンブン振り回しながら、お礼をした。

「俺腹へったべやー」
「なに食べよっか。 私何も作れないんだけど」
「なんか買い行くべー」

お互いに部屋から財布を持って、私は家の鍵がついているキーケースと携帯も持ち出して。
リビングのテレビを消してから、外に出た。

「「あ」」

敷地から出て数メートル歩いたところで、後方からクラクションが鳴った。
反射的に振り返ると、見覚えのある車とその中にお父さんとお母さんが笑顔で座っていた。
近づくと運転席の窓が開く。

「おかえりなさい!」
「ただいま。どうだったナマエちゃん、平気だった?」
「うん、あ、いや、大変だった」

奥から覗くように声をかえたお母さんに、昨日の夕飯のことを軽く話せば、最初はみんなそんなもんよ!と励ましてくれた。

「ほらヒョウ、お土産だ。二人で分けて食べろよ」
「ありがと。ん、なにこれ?」
「名物の饅頭と、ゆで卵だ」
「……ふぅ〜ん」
「なんだ、不満そうだな。お前だけ無しでもいいんだぞ?」
「や!ややっ!食べさせてイタダキマス」
「そうか」

豹とお父さんのあいかわらずのやり取りにみんなで笑って、豹はさっそくお土産のおまんじゅうを一口かじっていた。
車を車庫に入れたあと、お母さんに「ところで、どこ行くつもりだったの?」と聞かれたので「コンビニ。朝ごはん買いに行こうと思って」と返した。
結局、お母さんが作ってくれることになった。良かった!

「久しぶりにゆっくりできたわ」
「仕事を忘れて遊んだよな」

キッチンにお母さん、ソファにお父さん。
いつも通りに戻った光景を見て、安心を抱く。
ただ今日からちょっと違うのは、キッチンに立つのがお母さんだけじゃなくて、私もだということ。

「お母さん、何か手伝えることある?」
「んーじゃあ、じゃがいもの皮剥いてくれる?」
「はいっ」

今日から頑張ります。

「ゆで卵うま!」
「けっこうイケるな」

豹とお父さんが背中を丸めて殻を剥いてる姿が、なんだか微笑ましい。

12.10.19