060 (9/21)

「なんか、味しないね…」
「思ってたより、味薄いべや」

見た目はまあまあイケてるはずのオムライス改め、ケチャップライス。
一口食べただけで、分かったことがある。

私って料理ヘタだ…。

「ん、まあ、いんでね。これはこれで」
「うう…豹に気使われてる…」
「なしてそんな申し訳なさそうな顔すんのさ」

人に対して無頓着な豹は、私にだけは馬鹿みたいに優しくて、けして私を責めたりしない。
今は、その優しさが染みます。

「ごめんね、これから料理覚えるように頑張る」
「オッケー!俺応援するべや」

まずくはない、というか味がしないケチャップライスをなんとか食べ終え(豹は平気な顔して食べてくれた)、少しゆっくりしたら部活の時間。
エナメルバックにタオルと着替え用の練習着。それからスポーツドリンク。
髪をまとめる為のゴムを左手につけて。携帯はジャージのポッケに。

「火よし、戸締りよし」
「心配症〜」

確認したけど、もう一度。鍵を閉めたことを確かめて、学校に向かった。


:


pm6:30 不破宅

「夜ご飯は、ちゃんと買おうね」
「ナマエが作ったので良いけれども、俺は」
「だめ!」

ちゃんと作れるようになるまで、私の料理は披露したくない。

「コンビニ行こう豹」
「おー」

私はさっぱり冷やし中華と、おにぎり一個。
豹はがっつりとお弁当を二つ。
ついでにアイスと、飲み物を二つずつ買った。
テレビを観ながら二人で食べる夕食。ずっと一緒に暮らしてるけど、二人きりの夕食って初めてかもしれない。
練習終わりで腹ペコだったため、そんな時間はすぐに過ぎ去ったけども。

「豹、先にお風呂入る?」
「んじゃそうするべや」

豹があがった後に続いて私もお風呂を済ます。まだ全然暑いから、シャワーだけ。
私がお風呂から上がる頃、豹は部屋にいた。私も自分の部屋に入る。
早く髪乾かそうっと。ドライヤーのコンセントを差す。
部屋が蒸し暑いので窓を開けて網戸にした。
ドライヤーのスイッチを付け、温風を髪に当てる。ブォーン、と耳元で騒がしく音が鳴る。

その騒がしさのせいで、私は招かれざる客に気づけなかった。

「………?」

悪寒がして、ドライヤーを止める。静かになった部屋に、物凄い気配を感じた。

「…あ……やばい」

部屋をぐるっと見渡して、最後に見た窓際の壁に。

「…ゴ、キブリ」

大きめの、黒くて、テカテカしてて、速くて、強くて、すごい気持ち悪い……ゴキブリ。

「豹ー!!!!!」

持っていたドライヤーを投げ飛ばして、部屋を出た。怖い怖い怖い!

「で、でたっ、ゴキブリ!」
「ゴキブリ?」

12.10.05