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9月1日、午後5時過ぎ。

「今日の練習軽くて良かった」
「あーナマエ、腹の調子悪かったもんなっ」

まだまだ暑い部活帰り。
もうすっかり見慣れた帰り道には、よく立ち寄るコンビニと、少しそれたところに商店街。
バスケ部の誰かが住んでるらしいマンションを通り過ぎて、右に曲がって進めば俺んちが見える。
そんな帰路の間、ちょうど学校と家の中間あたりでナマエが「あ、そういえば」とエナメルバックの中を探った。

「なん?」
「お母さんがね、商店街のスーパーで買い物したんだって」
「へえ…で?」
「その時もらったんだってー」

バックの中から引き抜いたのはナマエがずっと使っている財布。
三つ折りのそれを開いて、札を入れるところからピンク色の紙切れを取り出して見せた。

「じゃーん、福引き!」
「…おおっ!」
「豹と二人でやっておいで、ってくれたのっ」
「おおっ!」
「これ一枚で一回なんだって。三枚持ってるから三回出来るよ」
「どこでやんの?」
「えっと…商店街の入口って書いてある」

けして運の良い方ではない俺と、運の良さそうな顔をしているナマエ。
まあ、やるからには一等狙い!
何かな、アメリカ行きのチケットとかだったら、めっちゃくちゃ嬉しいんだけども!

「豹、引いてみて」

ニコニコ顔のおじさんや、買い物帰りのおばさん。
それから隣で一番真剣そうなナマエに見守られながら、赤いガラガラを回す。一回転、ころんと出た玉はオレンジ色。

「お、オレンジ出たか!」

愉快そうな声に顔をあげる。おじさんが笑っていた。

「オレンジはね〜、洗剤だ!洗剤!洗濯機に入れる方ね。よく落ちるよ〜」
「………」

洗剤を手に入れた。あんま嬉しくないけども。
おじさんから洗剤を受け取ってるナマエは何故だか嬉しそう。はて、なしてお前が喜ぶんだい?

「やったね、洗剤ゲット」
「あんま嬉しくねーべや…」
「いいじゃん。お母さん喜ぶよ!」

二回目、ナマエの番。
ガラガラ、ガラガラ、一回転。出たのは、白。

「あーザンネン。白はポケットティッシュだ〜」
「…ありがと、ございます」

二人の間に沈黙が流れる。
ナマエはティッシュを手に入れた。ティッシュはね、うん。ティッシュはいらないべや。

「ティッシュ、いらないんだけどなあ」
「俺も洗剤いらないしね!」
「お父さんにこのティッシュあげよう」
「ヒャハハ、喜ぶんでね?」

最後、三回目。ナマエは俺に譲ろうとする。
なにやら、ティッシュと洗剤じゃ、洗剤を当てた俺の方が運があるかららしい。
俺から見たら、どっちも変わんないけどねっ。

「…いや、ナマエが引け!」
「なんでー、またティッシュだったらやだよ」
「大丈夫ダニ!一等当てろ!」

尻込みするナマエの手を持って、取っ手に握らせる。そのまま、一回転。
二人の手がスタート地点に戻った瞬間、玉が出る。

「あっ!」「おお!」

金色。

「い、一等賞〜!おめでとう君たち!一等は温泉旅行一泊二日の旅!」

やった!いっとーしょー!アメリカ行きのチケット!
……あ、あれ?おんせん?

12.09.04