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「すいません、保健室行ってました」

担任にそう伝えると、クラスメイトたちの視線が私に集まる。

「早退しなくて大丈夫か?」
「大丈夫です。」

足早に席に着くと、私のせいで中断してしまったHRが再開された。

ふう、さっきよりかは痛みも治まってくれた。
隣の席の豹を見てみると、いつも通り寝ている。きっと起きてる時間のが少ないんじゃないかな、豹。でもいいな、気持ち良さそう。私もねむい。


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「起立」

ガタ、という音に覚醒する。
一斉に立ち上がるクラスメイトに釣られて自分も立ち上がった。
「さよーならー」が言い終わる手前くらいで、みんな鞄を持って教室を出ようと歩き出す。
HRが終わったみたいだ。どうやら私は寝ちゃってたらしい。

「ナマエ、腹イタ治ったのかい?」

続々と教室から人が減っていく中、きっと私と同じタイミングで起きたであろう豹が、お弁当の蓋を開けた。
豹は相変わらずの変なお箸の持ち方でガフガフお弁当を食べ始めた。なんだか猫みたい。

「うん、治った治った」

私もエナメルバックの中からお気に入りの赤いお弁当を取り出した。
心配してくれる豹に『もう大丈夫』の顔をする。

時計を見た。ただいま12時20分。部活が始まるのは13時15分から。
ふいに先ほどのシノヅカさんとの出来事を思い出す。
……やだな、部活。シノヅカさんにも会いたくないし、ハセガワ先輩にも今は会いたくない。ハセガワ先輩、何も悪いことしてないんだけどな。シノヅカさんに、あんなこと言われちゃったらな。
ああ、憂鬱。箸が止まってしまう。どうしよう、早く食べて部活の準備しに行かなきゃいけないのに。

「なした?」
「え?」
「食わないのかい?」
「あ、うん。」
「俺もらっていい?」
「いいよ。なんか食欲ない」
「そ!じゃ、遠慮なく〜」

ごめんなさい、お母さん。せっかく朝早く起きて作ってくれたお弁当なのに。
代わりに豹が美味しそうに食べてます。

やだやだ言ってたって何も変わらないし、もう話は済んだし。何か起こらない限り、さっきみたいなこともないよね。
今日は出来るだけ穏便に過ごそうかな。
ふう。……がんばろ!

12.08.30