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食卓を囲んだあとのリビングでの団欒。
くの字型のソファーには缶ビールを片手にお父さん。そして豹が寝転がって、テレビを観ている。
お母さんは食卓で、趣味のパソコンを開きながら。私はお母さんの真向かいの席で、豹と同じテレビ番組を眺めていた。

夕方当てた福引きの景品を渡したのはつい先ほどのこと。
豹が当てた洗剤に、お母さんはすごく喜んでた。
そして、豹と二人で当てた温泉旅行一泊二日のペアチケット。一等賞、という響きの良い言葉も添えて渡す。
お父さんもお母さんも心底びっくりしたようだ。

「一等賞なんて、長い人生の中で一度も当てたことないわよ」
「ああ、俺も同じくだ」

旅館の外観がプリントされているチケットを、お母さんは優しい顔で眺めてる。

「あ、これ日付けは指定されてるのね。再来週の土日だそうよ」
「…ところで、誰が行くんだ?」

缶ビールを傾けたお父さんと目が合う。
確かにそれはそう。
私と豹じゃ、まともに辿り着ける自信ないし、お金の管理とかも不安だし。

「私たちじゃ、もちろん行けないし…」
「…父さんと、母さんで行ってくりゃいいじゃん」

今まで珍しく無口だった豹が、覇気のない声で言った。
ついでに身体を起こしてソファに座る。

「あら、ナマエちゃんとヒョウが当てたペアチケットよ。私たちが行っていいの?」
「……べつに、いんでね?」

明日雪でも降るんじゃないかと思うくらい、豹の元気がない。
普段はピンピンに立てている髪の毛も、今はなんだか下がり気味。

「…豹、どうしたの?」
「温泉旅行一泊二日……」
「ん?」
「なして温泉なんさね…」
「…ん?」
「一等賞っつったら、アメリカ行きのチケットでしょーが!」

ぶは!!とお父さんがビールを吹きこぼした。

「あらあら…」

お母さんはカウンターキッチンから布巾をとって、素早く零れたビールを拭う。

「おお…悪いな」

お前が笑わせること言うから、とお父さんは豹の頭をガシガシ撫でた。
まるで無愛想な猫が飼い主にあやされてる様だ。ちょっと面白い。

「片田舎の商店街の福引きで、アメリカ行きのチケットなんて賞品は、残念だが滅多にないだろうなぁ」
「…わかってるべや」
「ナマエちゃんのおばあちゃんとおじいちゃんに会いに行きたかったのよね、ヒョウは」
「…いい。自力で行くから」

自力?わたしには思いつかなかった発想に、思わず質問を投げかける。

「自力ってどうやって?」
「バスケで稼いで」

豹らしい返答に頬が緩んだ。
じゃあ、私も豹と一緒に稼いで、自力でおじいちゃんとおばあちゃんに会いに行こうかなっ。

「本当に、俺たちが行っていいのか?ヒョウも、ナマエちゃんも」

二人して頷いた。
お仕事や家事で忙しくしているのに、いつも面倒を見てくれるお父さんとお母さん。
偶然当てたペアチケットだけど、楽しんできてね。

12.09.13