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夏祭り当日。
前日にハセガワ先輩と連絡を取って、待ち合わせ場所と時間を決めた。

ショートパンツにTシャツ、サンダルという比較的シンプルな格好。
そして必要最低限の物だけを入れる小さめのバック。
神社までは徒歩で行くので、少し早めに家を出た。

「ハセガワ先輩っ」

時間より早めに着いたはずなのに、先輩は既にそこにいた。

「おぉ、ナマエちゃん早いね」
「すみません待ちましたよね」
「全然。平気だよ。 じゃあ、屋台回ろう」
「あ、はいっ」

射的、輪投げ、金魚すくい、くじ。
どれも楽しそうだけど、お金そんな持ってきてないからやりはしない。見るだけ。

豹だったら「やるべ!」「これもやるべ!」って全部やりたがるだろうな。
狭い水の中を優雅に泳ぐ金魚と、それをすくいで追いかける浴衣の女の子を眺めながら、心の中で笑った。

金魚すくい屋さんの隣の隣のそのまた隣、少し離れた距離でもしっかりと看板の文字は読み間違えたりしない。

「りんご飴だ…」
「食べる?」
「あ、はい、食べますっ」

飴に包まれた小さめのりんごが沢山並べられている。
学生時代を日本で過ごしたというアメリカのおばあちゃんが、近所の納涼祭で毎年飽きることなく食べていたのが、このりんご飴らしい。

「おいしいからナマエも食べてみな!おいしいから!」

今も元気なおばあちゃんの声が脳内で囁いた。

「すいません、これと、あとこっちの大っきいの一個ずつください」
「あいよ!すぐ食べるかい?」
「小さいのはすぐ食べます。もいっこは持ち帰ります」

頭に白いタオルを巻いた活気溢れるおじさんが、手際良く大きい方のりんご飴を袋に入れてくれる。
てさげみたく持ち歩けるようになった可愛らしいそれを受け取り、お代を支払う。
自分の分は手前に並んでいた中の一本を引き抜いた。

「二個?」
「あ、お土産です」
「そっか」

小さくて可愛らしいのに存在感のあるそれを一舐めした。あまい。

そしてお父さんとお母さんに焼きそば。
ちゃんと、お箸も二本つけて。紅生姜と、青海苔もかけてもらうようにお願いした。

右手に自分の分のりんご飴、腕を通して鞄がかかっている。
左手に豹の大っきいりんご飴と、お父さんお母さんの焼きそば二つ。
量的にはそんなに多くないけれど、夜になって人が増えてきたのか少し歩きにくい。

人を避けながら歩いていたせいで、前を歩くハセガワ先輩と距離があく。
それに気づいたのか、立ち止まって私が追いつくのを待ってくれた。

そして右手を差し出す。

「?」
「荷物、持つよ」
「あ…いや、」
「遠慮しないでいいよ!」
「……」
「ほら、貸して?」
「うう…すいません」

忍びやかにあがった口角に負けて、左手に持ってる物をハセガワ先輩に渡した。
ありがとうございます、と呟くが先輩の耳には届かなかったみたいだ。

「混んできたなあー」
「……」
「ナマエちゃん、手、」
「…て?」

再び差し出された右手の意味が理解出来ず、首を傾げた。
ふ、っと先輩が笑ったような気がした後、今さっき空いた左手を掴まれた。というより、握られた。

「え、あ…あのっ!」
「ん?」
「て、手!」
「人多いし、危ないよ。」
「〜〜!!」

きっといま私、すごい真っ赤だ。

12.07.15