049 (9/11)

「あー、うー、」

リビングのソファーの上で胡座をかいている俺に向かって、母さんが怪訝そうな顔をした。

「そんな唸って、どうしたの」
「べつに、なんでも」
「お母さん知ってるわよ……ナマエちゃんのことが心配なんでしょう?」
「チガウ、」

そう否定して、テレビに視線を向けた。内容なんて頭に入ってこない。
旬のお笑い芸人が流行りの一発ギャグを披露するも、今の俺にはクスリともこない。
ごめんなさい、いつもは笑ってます。


「お祭りくらい行くでしょう?そんな心配しなくっても、」
「一緒に行ったヤツが問題なんだべさ」
「………あら、もしかして、ボーイフレンド?」
「チガウ」
「ナマエちゃんなら大丈夫よ、しっかりしてるから」

母さんの言葉に納得はするものの、機嫌が直るまでには至らない。
別にナマエを干渉したり、何かを制限したいわけじゃない。むしろその逆だ。お互い好きなように、自由にやりたい。でも。

「あいつは、だめっしょー」
「あいつ?」
「ハセガワはだめ、俺きらい」

なんかあのスカした感じが苦手だ。

「……ナマエと祭り行きたかったなあー」
「また来年行けばいいじゃない」
「ぶー」

べっつに、いいもんね。夏休みまだまだあるし。
ナマエと遊ぶ時間いっぱいあるし。

「暇なら宿題やっちゃいなさいよー。もう中学生なんだから、お母さんもナマエちゃんも、手伝ってあげないからね」
「…へーい」

返事だけしてソファーに寝転がった。宿題?明日やるべ、明日。

「んもう、」

どこからかため息が聞こえたが、知らんぷりで瞼を閉じた。

「ただいまー」

ぱち、目が開く。

「豹ー、りんご飴買ったよー」
「帰ってきた!」

耳触りの良い声が玄関から響いて、ソファーから飛び跳ねる。

「外すっごい暑かったー。あ、じゃがバタ忘れた!」

玄関へ飛んでいった俺の背中に、キッチンで皿を拭いていた母さんのふふ、と笑った声が乗った。

12.07.19