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「「「よろしくお願いします」」」
部活動見学から一週間後、私と豹は約束通りバスケ部に入部した。
男子も女子もけっこう多くの一年がバスケ部の新入部員となった。
だいたい男女合わせて20人くらいかな?
「やっぱりアイツ入ってきた…」
「なんで黒染めさせないの?」
「あれ地毛?嘘でしょ」
「生活指導ちゃんとしてんのかよ」
ひそひそ、やはり髪色のことを言われてしまう。
初顔合わせのミーティング中、後ろの方で隣同士で座っている私たちに視線が刺さった。
男の先輩は豹、女の先輩は私、といったところか。
冷たい視線を向けられると畏縮してしまう。こっち見ないでほしい。
先輩たちの気持ちだってわからなくはない。
校則なんて面倒だし、お洒落だってしたいだろうし、急に入ってきた一年がこんな感じだったら怒っても仕方ないのかもって思うけど、正直居づらい。
「じゃあとりあえずストレッチから〜」
はーい、返事をしながら全員がコート全体に広がる。視線が散らばり一安心。
何気なく周りを見渡してみると、一人の男の先輩と目が合った。
入ったばかりで誰一人先輩を知らないので、気まずくなり咄嗟に目をそらした。
間接視野で様子を伺うと、先輩はまだこっちを見てる、見てる、見てる……あ、やっとあっち向いた。
わ、またこっち見た!
どうすれば分からない時はとりあえず会釈!これやっとけば適当にやり過ごせると、私は考える。
「……?」
ぺこり小さく頭を下げるとバイバイと手を振られた。
ん?私に振ってるのか?
確認のため先輩から見て自分の向こう側にいる子を見るが、その子は隣のお友達と会話に夢中だし、多分違うよね。
私ですか?の意を込めて自分を指差すと、ウンと先輩は頷いた。
いやウンって…何か用ですか…?
遠くにいるため声を出すわけにもいかないし、ジェスチャーで会話できるほど私と先輩は仲良くないのだ(だって初対面)。
どうしよーどうしよーとあくせくしていると救世主が登場した。
「ねえねえ、名前なんていうの?」
「…あ、私?」
「うん」
「ミョウジナマエです、よろしく」
「うん、よろしく!」
右隣で太ももを丹念に伸ばしているポニーテールの女の子、きっと私と同い年。
彼女が話しかけてくれたおかげで、先輩との気まずいジェスチャーから開放された。ありがとう。
「私にも名前教えて」と言おうとしたところでキャプテンからのストレッチ終了の指示が出されてしまった。
救世主の女の子もそそくさと立ち上がって行ってしまった。仕方ない、今度改めて聞こう。
「はいアップするよー」
ストレッチの次にアップ。
コートの端に並び、順番にこなしていく。
豹のやつサボってないだろうな、なんて思って彼を見たら、案の定あくびしながら腕を回していた。
手を抜いて適当〜って感じ。豹は練習きらいだからな。実を言うと、私もアップは好きじゃないけど。
「もっと声出せよー!」
「「「はーい!」」」
:
「なぁんでシュートの仕方なんか教えらんなきゃなんないんだべ〜。そんなんとっくの昔に知ってるっつの!」
「今日が初日だし、基礎からやっていくんじゃない?」
「ちぇ〜、つまんねーっ!!」
練習帰り、豹がブータラ文句を垂れる。
今日はシュートの基本やドリブル仕方などを教わったのだが、豹は基礎が完璧に身についてるからか面白くないようだ。
新入部員には私と豹含めミニバス経験者だって数人いるのだが、それでも初心者の方が多く、基本的なことからやっていかなくてはならないらしい。
楽しいかって聞かれたら、私だって楽しくないけど。
豹曰く、東大教授が「1+1=2」を教えられているようなもんだべ!と至極わかりやすい例えをしたのだが、豹が東大教授という設定についつい笑ってしまった。
「豹が東大教授なら、私は何?」
「え、ナマエは助手!教授助手!」
助手?助手って微妙な立ち位置!
まだ2年半あるんだし焦らなくても大丈夫でしょ、と宥めると「じゃあ昼休みとか自主練しに行くべ!部活に出るよりナマエと1on1してた方が練習になるさね」なんて嬉しいことを言われた。