030 (13/23)
1ピリ中盤に交代した豹の活躍ぶりは、誰もが目を見張るものだった。
「好きにやれ」
監督の指示はこれ一言のみ。
「言われなくてもそうするべや」
豹が舌を舐めずった。
コートに踏み入れてほんの5秒ほど経ったとき、豹の第一得点はスリーポイントだった。
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「よくやった!よくやったぞ不破!」
監督や先輩が歓喜の声をあげている。
相手チームの監督や選手は「まさか…」と言いたいような驚いた顔。
80得点。
チーム全体のスコアが80ではなく、豹がたった一人で取った得点が80。
気づけはギャラリーは増えに増えていて、誰もが「あのオレンジすごい」「すごい一年が入ったみたいだ」と口を揃えている。
試合終了のブザーが鳴って、豹たちがコートを出たあたりで、キャプテンが豹の肩を叩いた。
「よくやった、お前がいなけりゃ勝てなかったよ」
距離が遠くて全ては聞こえなかったが、キャプテンの言葉は豹の活躍を労うもの。
「豹!すごいね、80得点だよ!」
「久びさに楽しかったべやー」
汗だくの彼に駆け寄った。
家にいる時とは違う、熱気のある豹の匂いが鼻を掠めて、ふわっと頬を触った。
「次女子の試合だべ?勝てよー!」
「まだ出れるか分かんないよ」
昔から豹の上手さは誰よりも近くで見てきたけど、今回の試合は凄かった。
もう言葉じゃ言い表せないくらい、とにかく凄い。
パス回しなんてなかった。
豹にボールが渡れば、チームメイトは安心したような顔をした。
不破にボールが渡れば点が取れる、とでもいうような。
それを豹の方も、重荷や足枷だとは思ってなかったようで、思い思いに羽を伸ばしていた。
きっともう、これからの部活で豹に文句をつける人なんていないだろう。
「ナマエ」
「なに?」
「一緒に勝ってくべや」
「うん!」
はあ、緊張する。
まだ出れるかも分からないのに。