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午後から部活がある日は、朝飯の前に走り行くことが多い。
県大会が終わって、季節は本格的に夏へ向かっている。
午前8時30分。既にこの時間でも、額には汗がじんわりと滲む気温になってきた。
ナマエと起きる時間を合わせて一緒に走りに行っていたが、色々あってからナマエが時間をずらして、俺より遅く家を出るようになった。

昨晩のことを思い返す。
寝ているであろうナマエにごめんと言いはしたが、なんら意味はない。
また起きてる時に謝ろうと決意はしたものの、あいつが許してくれるかどうかはわからないのが、俺を臆病にさせる。
ナマエが、俺のことを嫌いになってしまったんじゃねえか。可能性としては充分あり得る。
嫌な想像をした。俺の顔を見るのも嫌んなって、じいちゃんばあちゃんがいるアメリカに帰ってしまうんじゃないか…。
ぶるぶる。頭を振って、立ち上がり家を出る。
やっぱ外あちーな。

「豹待って!」

つま先をトントンして、走り出そうとした瞬間。幼い頃から聞き覚えのある声に呼び止められた。

「…お、おお。ナマエ」

髪をひとまとめにしながら、ナマエは同じようにスニーカーのつま先をトントンしていた。そして駆け足で俺の元にやってきて、何とも言えない表情でまっすぐこっちを見つめてくる。
ドキドキ。なんだべや、この感じ。すげー久々に感じる…。

「おはよう豹!」
「お、おう」

いつもより心なしか上ずった声で、ナマエは気まずそうに眉を下げた。つられて俺まで変な声が出ちまった。
やばい。嫌われたかも。
豹気持ち悪いって、思われちゃったかも…。
さっきの悪い想像が頭の中を駆けずり回る。
このままじゃ、ナマエはアメリカに帰ってしまう。そんなん絶対嫌だべや。
ごめんて、謝らないと。色々ごめんて、

「一緒に走りに行こう!!!」
「……へ?」
「あっ……嫌なら、いい、んだけど…」

ごめんのごまで口を開いたと同時に、ナマエが珍しく部活中に出すような大声を張り上げた。
驚きすぎて思わず聞き返してしまった俺の反応を見てからか、元から様子を伺うような顔つきが、見る見るうちに強ばっていく。

「ご、ごめんなさい、やっぱ邪魔かな…」
「え!」

ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

「や!や!そーじゃない!なんでお前が謝るんさ!」

ここで言わなきゃ、次はないかもしんない。
ここで言わなきゃ、男じゃねえ。

「っ、ナマエ!」
「…はい」

俺がお前を避けるようになって、仲悪くなって。口も聞かなくなって。俺から仕向けたのにすげー嫌な気持ちになった。
お前の笑った顔は、もうしばらく見てない。
もうこんな思い二度としたくない。

「ごっ」

もう、お前を傷つけるよーなこと言わんからさ。

「ゴメン!!!!!!!!」

俺のこと、許してくれ!

16.7.4