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ティーンエイジャー


好きな人と手を繋ぐとかデートとかその先だとか、そういうのって高校生の私には夢が詰まったイベントなわけで。青春の醍醐味なわけで。



「なに?俺ちんちくりんに興味ないんだけど」
「酷ッ!ねぇ硝子いまの聞いた?」
「ちんちくりんは言い当て妙だね」
「硝子も酷い!!」


もう私には夏油しか味方が居ないんだ、そう言って隣の隣の席の彼に目を向ける。指を交互に組み合わせて、それからうるうるとした目で「 原宿デート、私と決め込んでください!!」そう懇願した。


「………… そんな必死に、」
「おら、傑が可哀想なものを見る目してる」
「煩い五条。アンタには分かんないでしょーよ、この惨めさが」


発端は中学の友達からの一通のメールだ。非呪術師家庭で生まれ育った私には、もちろん呪術のじゅの字も知らない友達がいるわけで。こんな山の中に隔離された生活とは縁遠い彼女達は、高校デビューというものを楽しんでいるらしい。


「硝子ォ…見てよこのチサからのメール。写真付きでさあ」
「わあ、ラブラブじゃん」
「チューしてんの、チュー。こんなの毎日呪いとチューする勢いで闘う私には眩しくて眩しくて…!」
「で、どうにか自分も高校デビューしたいと」
「さすが硝子!話が早い」


同級生はたったの三人。男子二人に、女子が一人。青春には人数は関係ないけれど、甘酸っぱいアオハルを経験するには些か人間関係が狭すぎる。
チサなんて近くの男子高のイケメンを引っ掛けていて、マヤカは生徒会の先輩とラブラブらしい。中学の部活に明け暮れた時とは違い、メイクにお洒落に恋にと輝く友人達がすごく眩しいのだ。


「………レイお前チューしてぇの?」
「え?まあ、彼氏がいれば?いずれは?みたいな気持ちはあるけど…」

硝子の次は夏油に、夏油の次は五条に……チサから送られてきた写メを無理やり見せていれば ふと五条が言う。夏油も硝子も「人のプライベートを見せ回るのはどうかと思う」と至極真っ当なことを私に言っているけれど、ここは無視だ。いいですか、真っ当な人間は呪術界では生き残れないのです。


「五条はチューしたい?」
「っ、は?」


『どう?彼氏、カッコいいでしょ』メール本文の文字を追いながらなんと無しに聞いてみれば、深い黒に隔てられた向こうで、その瞳が大きく見開かれたのが分かる。五条は隣の席だからか、普段からその心情の変化はなんとなく雰囲気で分かった。なぜか珍しく動揺しているようだ。


「俺が?お前と?」
「なんで私限定なの!恋人とってこと。それか可愛い女の子とか。男の子でもいーけど」


まさかあの五条悟がキスの一つや二つ、未経験なんてことは有り得ない。それは夏油にも言えたことだし、硝子も恋愛に興味無さげなのに、なんだかんだ彼氏持ちである。私はまあ、それなりに中学で恋愛もしたが、美男美女揃いで都会に出ればナンパされまくりの三人の前ではそんな思い出も霞んで見えるけれど。


「チサの写真見てるとさァ。好きな人と一緒に居るって良いなぁってちょっと思うよね」
「………」
「ほら、私達って明日には死んでるかもしれないじゃん?好きな人がいてチューして…ってもう想像つかないや」

「急に暗い話」
「だって硝子。実際そうじゃん」
「否定は出来ないね」


遠い目になっていたのだろう。オーイと夏油が私の視界に入るように手をふりふりしている。ハァ、私も超絶強い特級様になりたいよ……嘘、忙しさに死ぬ気がする。二級の今ですらしんどいのだ、パス。


「五条、知り合いにいないの?イケメン」
「、ハァ?」


チューという言葉の余韻に浸っているのか呆けている五条に声を掛ける。一拍遅れて面倒そうな返事が返ってきたが、合わせた目をサッと逸らされてしまった。

「五条って意外と初心なの?」
「レイ、あまり悟の心を弄ばないでくれ」
「へ?」


夏油の窘める声に首を傾げれば、さらに硝子から「お坊ちゃんだから精神的にやられるの慣れてないんだよ」と言われてしまう。はて、唯我独尊の悟坊っちゃんが精神的にやられるとはどういう状況だろう?え、もしかして


「五条…まさかチューしたことない…?」
「……ッ……は!?」

「反応遅っ。うけるー」
「硝子、だからやめなさいって」
「はいはい。傑ママ」


まさかの反応に持っていた携帯を机の上に落としてしまった。あー、ちょっと角に傷入っちゃったや。


「五条、まじ?え?うそ、可愛いとこあんじゃん」
「うるせー!」


耳を真っ赤にさせた五条のまさかの反応に、ついつい可愛いなんて口走ってしまった。


「あはは、恥ずかしがってる可愛い」

真っ赤な耳たぶにちょんっと触れる。五条がこんなに慌てる姿を見たことが無いから、嬉しくて口元が緩んでしまう。ひゅ、と五条の呼吸音がした。


「っ……」

パシンと軽い衝撃音。五条の手が耳を触る私の手を弾いたのだ。え、息を呑む。


「…っ、やめろ」
「………五条?」


「だからレイ、悟の心を弄ばないで」
「あーあ、五条は今日寝れないな」
「へ?なにそれ、そんなに私が嫌なの…?」


やめなさいと夏油に言われたと思えば、硝子も聞き捨てならないことを言ってくる。神経が図太いと言われる私も流石に硝子の一言はグサっと来た。そんな…いくら嫌だからと言って寝れないほどストレスになる??
五条…私が触れるのそんなに嫌なの…


「私は五条のこと嫌いじゃないのに…」
「…は?……なに言ってんの」
「そりゃチューなんて連呼する女子は嫌かもしれないけど、耳触ったくらいでそんな…」
「へ? あ……レイ、」


戸惑ったように私を呼ぶ五条は、今度は私の手を掴んできた。強いな。なんだよバカと心の情緒が狂ってくる。


「レイ!」
「触らないでよ五条。嫌なんでしょ、私も触んないから」
「ちげぇって」
「……なんなの」


強く掴まれた腕はびくともしない。この状況がどういう意味なのか、五条の心の内も、何もかも分からない。五条に向けていた視線を硝子へと投げれば、アンタが鈍感だからこうなる と面倒くさそうに言われた。

「どういう意味?」
「五条に聞けば」
「………夏油ぉ」
「嫌だ。悟に聞きなさい」

「…… 五条?」
「………」
「返事すらしてくれないんですけど?」

私の腕を掴んだまま、嫌いかと聞けば違うと否定だけしたまま、五条は無言で私を見ている。サングラス越しの目が怖いなあ。よし、分かった。


「五条」
「…ん、」
「私のこと嫌じゃないなら、チューする?」
「── … っ、」


ブンッ ──── … ぶん投げられた。


「っ ちょ、…はあーーーーーー!?」


数分後、何事かと教室に飛び込んできた夜蛾先生に四人とも説教されたのだった。正座っていつやっても慣れないね。

「五条とは一生口きかない」
「はあ!?んでだよ」
「チューなんかぜっっったいしてやんないわ」
「誰がお前の ちゅ、チューなんか居るかよ!」
「………デートは?」
「……してもいいけど」
「へぇ」
「なんっだよ!!」


「これはレイが悪い」
「いや五条も初心すぎだって。いつもレイのこと弱っちぃとかちんちくりんとか言うくせに」
「それもそうだねぇ」
「はやく好きって言や良いのに」
「ハハ。悟にはまだ早いよ」


きっと悟がレイとチューできるまで死なせやしないって。だからレイは高校デビューできないなんて心配は無用だね。なんて言う夏油の言葉に「本当にそうなりそうだから怖いわ」と硝子が笑って返したとか、そうでないとか。



(さしすと平和な昼下がり)



title 大佐