17.(一週間後)


「それじゃあゼオン、行ってくるのだ」
「ああ。無事に帰れよ」

一週間後、転送装置を動かすため、お城の広場には34名の元王様候補の魔物が集まっていた。
"王を決める戦い"のときにパートナーだった人間に会いたいという魔物たちだ。
ガッシュ様は怖そうな魔物にも親しげに話しかけていて、人望を感じる。
パートナーに会いたくないという魔物はわざわざ人間界に行かないし、悪巧みしそうな魔物・約束を守らずに暴れそうな魔物は除外してあるから、コルルちゃんの要望である"安全"は叶えられている。
人間界には行かないけれどガッシュ様を応援するため魔力を込めるのだけ手伝うために来たという魔物もいる。
ほとんどの魔物にはガッシュ様の状態や本当の目的は伏せて、
「転送装置で一度だけ人間界に行くことができる」とだけ説明している。

「ゼオン様もアースさんは一緒に行かないのですね……」

ふたりとも人間のパートナーをとても大切にしていたと聞いている。
ゼオンさんのパートナーの名前はデュフォー。
類い稀な才能と数奇な人生の持ち主で、"家族"だったと、たしかに聞いた。
アースさんのパートナーはエリという女の子で、体が弱くとも心の強い人だったらしい。

「王が不在となるのに俺まで城を空けることはできない。……デュフォーが元気にしているか様子を見てきてくれ」
「エリにもよろしくお伝えください」
「うぬ。わかったのだ」

やむをえない事情とはいえ、玉座を預けるということの信頼関係は重い。
王杖(ワンド)はガッシュ様が持っていくから、成り代わることはできないのだけど。
ティオちゃんが周囲を見渡して呟く。

「ブラゴも行かないのね……。シェリーに会いに行けばいいのに」

ブラゴというのは魔界で名の知れた強く恐い魔物で、"王を決める戦い"でもガッシュ様を除けば一番最後まで残った魔物だ。
それだけ長くパートナーと一緒にいたということだが、今回の人間界行きに誘っても肯んじなかったらしい。
「行く理由がない」「今更会ってどうする」という冷たい返事だったらしい。
パートナーに会いに行くというシンプルな動機を示すことが難しい魔物もいるらしい。

「こんなときに意地を張ってもしょうがないのに……」

 * * *

転送に参加する魔物たちは皆、パートナーに会えるとあって胸を踊らせていた。
一方私は不安が残るばかりで、ひたすら緊張していた。
転送装置が予定通りに作動しなかったらどうしよう。行ったことのない人間界が恐いところだったらどうしよう。人間界でもガッシュ様の封印を解く方法がなかったらどうしよう、と。

「ティアちゃん、大丈夫?」
「コルルちゃん……」
「"王様"の挨拶が終わったの。準備はもうできてる?」
「――うん」

エネルギーは充分に蓄えてあって、いつでも動かすことができる。
私は構造を知っているので、運転士の役割も兼ねる。
参加者全員が円盤状の転送装置に乗り込んだところで、コルルちゃんが唱えた。

「"シン・ライフォジオ"!!」

温かい光に包まれたのを確認して、レバーを引く。

「では、転送装置を作動します」

もっと眩しい光に飲み込まれていった。

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