15.(八日後)


ナタに言われたとおりに母さんの遺品の整理をした。
一族みんなに母さんが作った魔具を伝えて共有財産にするのだ。
それと、二つの条件を果たせばお城に行っていいと言われた。
一つは、”迎え"がくること。

「ティアちゃん」

場所を変えて、わかりにくい小屋で作業していた私に、コルルちゃんとティオちゃんがひっそりと声をかけた。
きつい言い方で追い返してしまったのに。
転送装置の設計図は渡してあるから、私はもう必要ないかもしれないと思っていたのに。
……こんなことなら転送装置の設計図を渡さなければよかったと、後悔さえしたのに。

「来て、くれたんだ……」
「当たり前でしょ。今日はあの魔物はいないの?」

ナタのことだろう。
私と契約の呪いを交わしたから、もう直接見張る必要はない。

「うん。渡した設計図は、どう?」
「みんなで読んだんだけど、正直ね、ちっともわからなかったの。
書き方がわかりにくかったって意味じゃないのよ? ただ根本的なところが……。
転送装置もガッシュのことも内緒だし、あんまりいろんな魔物に見せるわけにはいかないでしょ。
魔界学校の有名な先生でも、作ろうと思ったら何十年もかかるって言ってたし」
「みんなでね、ティアちゃんがほんとうにすごいってあらためてわかったんだよ」
「それに、転送装置は誰にでも作れたり使えるようにしちゃだめでしょ。ティアが作ってたみたいに、決まった魔物にしか動かせないって大切だと思うの。ガッシュがいよいよ危ないってなったら急がなきゃいけないけど、できればティアに来てほしいわ」
「それにティアちゃんにずっと閉じ込められていてほしくないの。一緒に行こう?」

必要とされるということはどうしてこんなに甘美なんだろう。
複雑怪奇に絡んだ責任なんて全部放り出してただその胸に飛びつきたくなる。

「ありがとう……。ほんとは、説得は終わってるの。次の満月までにはお城に帰るよ」
「よかった、ティアちゃんがいないと」

ほっとしたように笑う二人に私も微笑みのようなものを返した。
両腕に入れた契約の刻印がズキズキ痛むけど、心ほど痛くはなかった。

 * * *

城に帰るための条件はもう一つ。
満月を待つ間、いつも以上の折檻を受け、一族の特徴である曲角を削り折り、首と顔にまで呪いの刻印を入れることで、呪いを扱う一族を”抜ける”ことを許された。

城に戻ると様変わりを心配されたけど、
ナタには、折檻を受けたと明らかなくらいのほうが共犯を疑われなくてよいと言われた。
私がガッシュ様を呪って王族から報酬を巻き上げているという自作自演に思われないように、同情を買えと指示されたのだ。

もう"呪いを扱う一族"の一員として扱われないという事実は重いが、しかたないだろう。
私は一族を裏切ったのだ。一族の存亡の危機というくらい大きなことをした。
よりによって落ちこぼれで誰にも見向きされない卑しい身で……。
元々呪いを行えないことで一人前として認められていなかった上に今回のことだ。
きっと恨んでいるひとはたくさんいる。

ナタの任務を失敗させるということは、一族の評判に傷をつける。
表に出ることがなく人づてで行われる呪いの依頼は、品質の信頼が何よりも重要なのに。
「これからは呪い以外の手段で食べていけばいい」だなんて説得が一朝一夕にいくわけもない。

ただ、一族の者を名乗ることが許されないというだけで、一族の集落へ立ち入り禁止というわけではない。
見つければ即座に殺されるかどうかというのは個人の感情や恨みの大きさによる。
こそこそと隠れて自分の家に道具を取ることは可能だ。
ナタと魔具の説明などのやりとりを行うこともあるだろう。

目立つ体の刻印は、ガッシュ様たちには「一族の秘密を漏らさないように」課せられたものだと説明した。
実際にはある呪術を発動させるためのモノだ。
痛みを伴って、見張られて、罰を受けていたほうが、足を伸ばして眠り美味しいものを食べるよりもずっと心が楽だなんて不思議なことだった。

お城に帰ってからは、私はただひたすら、ことさらに心を傾けて転送装置の作成に取り組んでいった。
急ぎたいのはただ私の気持ちのためだった。
ナタはできるだけ引き延ばせと言ったけど、ガッシュ様の不安を思えば、そんなことができるはずもない。
半年を経て、ついに完成に届く。

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