溺愛真珠


何もやっても三番目。
運動も、勉強も、妹としてだって。

「文字通り"何をやっても世界で三番目くらいにできる"っていうのは立派な特技だと思うよ」
「真黒にぃはわかってない」

ぷくっと頬を膨らませてれば、ご褒美ですとばかりに満悦顔を返され、パシャッとシャッターを切られる。
衣装も舞台装置も兄の変態的なフェチズムを満たすリクエスト通りだ。さぞかし可愛いでしょう? 
どんなモデルにもアイドルにも劣らない、それこそ世界で三番目くらいには可愛いはずだ。
自称『理詰めの魔術師(チェックメイト・マジシャン)』たる真黒にぃのプロデュースを幼児期から常日頃受けている私は、容姿だってレベル99に磨かれ済みなのだから。

「真珠ちゃんのことは僕が誰よりも知ってるよ!」

髪の先から足の先まで磨かれて、真黒にぃは私の身体で知らないところはない。私の癖も、記憶さえ知り尽くしている。
私の知らない私のことまで知っているから、たまに便利。一般的に考えたら、

「わあ気持ち悪い」

笑って毒を吐けば、それでも悦んじゃうダメな兄だ。
よろこんでもらうことを喜んじゃう私もまた、ダメな妹なのだろう。

お兄ちゃんだけのアイドルでいてあげるね、と。
お触りOKで兄から注がれる愛をすべて受け止め愛玩される私は、凛と苛烈な姉たちにとって理解不能な生き物らしい。

生まれ持った素質を究極まで伸ばせたのは私じゃなくて真黒にぃの凄さだし、
レベル99・これが限界・伸びしろなしとわかっている。
何をやってもめだか姉か、世界中のその道一筋の達人が一人くらい破れない壁として立ち塞がる。
私は「そこそこ」なのだ。器用貧乏ならぬ"器用富豪"らしい。
ナンバーワン、すなわちオンリーワンにはなれないのだから、私は誰かの代用品でしかない。
特別という肩書が安売りされる学園で、適度にチヤホヤされて、
檻とも言えるこの塔でドロドロに甘やかされて、溺れていられたらいいのに。

真黒にぃは、妹の写真アルバムやDVDやぬいぐるみや等身大ポスターや以下略を床が抜けるほど所持している。
こんなに協力的な私のグッズが一部屋分もあるのはいいとして、
交渉材料以外で着せ替え人形になってあげない姉たちの分だって、引けを取らず存在している。
真黒にぃは妹愛で妹萌えで、妹なら誰でもいいのだ。

いつでもどこでも、「こっちを見て」と言えばいくらでも視姦――もとい視線をくれるこの人の、この男の。
心を一色に染めることだけは、私だけで埋め尽くすことは、
どんなに媚びてもねだっても受け止めても、どう足掻いてもできないのだと、気づいているから。
何をやっても三番目。何においても代用品。
一番欲しい物は手に入らないのだと、今日も愚痴をこぼす。

兄が兄でなければ心置きなく過ちを犯せたのに、
妹でなければ真黒にぃはきっと私を見ない。
私のお兄ちゃんは一人しかいないのに、
真黒にぃの妹は三人いるのだ。姉たちが認める認めないにかかわらず。

これは慣れ合い。傷口の舐め合い。
蜂蜜のような愛を囁かれ、溺れそうになっては深海で貝を閉ざす。

心を全部あげたいけど、この気持ちには触れないで。
心が全部ほしいけど、全部飲み込んだらきっと苦くて酸っぱくて泣いてしまう。

だから今日のところは肌が触れるくらいべたべたに抱きついて長めにちゅーするくらいで我慢してあげよう。
服の中に入り込んだこの手から、熱い温度が伝わりますように。


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