死ではふたりを分かてない




「こんにちは、傍観主です。」
「物語には関与せず、ひっそりこっそり近くから遠くから眺めることで心を満たすことを役割としています。"傍"で"観る"の。」
「え、本来の意味と違う?」
「ストーカーともいいます。」

「好きで傍観主なわけじゃありませんよー。」
「私が普通で平凡でつまらないから、相手にしてもらえないのです。」
「禊くんの真似をして格好つけて括弧つけたりしていますが、これはただの独白です。」
「複数人の会話じゃなく、一人が矢継ぎ早に喋ってると思って読んでくださいね。」
「独り言ともいいます。」

「だって普通(ノーマル)な私が括弧を付けるには喋るしかないじゃないですかー。」
「誰かを不快にさせたり、精神攻撃するなどの特殊能力は持ち合わせていないので安心してください。」
「無力(ノースキル)って言うと格好いいかしら。」
「だって普通(ノーマル)だもの。異常(アブノーマル)なのは性癖だけでーす。」

「親は転勤族という奴で、高校生なのに一人暮らし(笑)をしています。」
「……親ってどんな顔だっけ?」
「まぁいいや。」
「箱庭学園1年4組普通科の生徒です。部活は吹奏楽部です。料理はそこそこできます。」
「生徒会長の黒神めだかさんには一票を投じたけれど特にかかわりなく過ごしていました。」
「そういう人って普通科にはけっこう多いですよ。普通です。」

「最近うちの学校に転校生が来たんです。」
「えっ球磨川禊くんをご存知ですか?」
「私の最愛の人です。」
「たしかに恋人じゃないですけど、一方通行でも"最愛"は成立しますよ?」

「出会った瞬間びびっときて、痺れる感じ。ドキドキして目が離せなくて、耳に残る声が忘れられなくて、幸せな感じ。」
「"授業と部活動の廃止"、"直立二足歩行の禁止"、"生徒間における会話の防止"、"衣服着用への厳罰化”、”手及び食器などを用いる飲食の取締り"、"不純異性交遊の努力義務化"、"奉仕活動の無理強い"、"永久留年制度の試験的導入” いいじゃないですか、万歳。禊くんが言うなら。」
「こういうのを一目惚れとか運命って言うんです。」
「洗脳? それも禊くんなら歓迎です。」

「禊くんが生徒会長になればいいのに。禊くんを虐める生徒会なんていなくなればいいのに。」
「マイナス13組ってみんな禊くんと仲良くて羨ましい。」
「"私も仲間に入れて"って言ったけど即却下されてしまった。クラス替えしたいよー。」
「禊くん冷たい。でも好き。」
「括弧つけたりなんかしなくても格好いいのにね。」

「電波っぽい子を傍に置いてるから電波発言は嫌いじゃないと思うんだけどな。江迎ちゃんに嫉妬。この前握手したら腐って溶けちゃった。」
「志布志さんに見つかって体中傷だらけになったこともあるなぁ。」
「蝶ヶ崎くんと目が合うとどうしようもなく不快で不安でいらいらした気持ちになるんだよね。」
「散々罵られたりしたけど、今はあんまり嫌われてはいないと思うの。こっそり差し入れ置いといたら食べてくれたみたいだし。江迎ちゃんも志布志さんも蝶ヶ崎くんも、仲間にしてあげたらどうですかって禊くんに言ってくれたし、けっこう仲良くしてくれる。」
「現生徒会の人たちに事情聴取とか受けたけど、禊くんやマイナス13組の人たちの弱みなんて知らないし知ってても言わないし。」

「だから仲間に入れてほしいのに、禊くんは駄目だって言うの。どうしてぇ?」
「私が普通(ノーマル)だから? 過負荷(マイナス)じゃないから? かっこいい超能力もかっこ悪い特殊能力もないから?」

「…………まぁ、相手の気持ちを手に入れるのが難しいのはしかたないよね。」
「振り向いてくれなくてもいいの。禊くんがっ、禊くんのまま、いてくれれば。そばにいるから、みてるから。」

「殴られて縛られて薬盛られても、だいすきだからっ」


……うあ さすがに意識が朦朧としてきた…………



「『何度目だろうね、"君が僕を好きな気持ち"をなかったことにするのは』 」
「『何度僕と出会って 何度僕に惚れれば気が済むんだ』」
「『"なかったこと"を"なかったこと"にするなんて僕にもできないのに』」
「「君を見ているとろくでなしの神様を殺したくなる』」
「『そういうご都合主義は週刊少年ジャンプの主人公だけにしてくれないかな』」
「『普通(ノーマル)の君が過負荷(ぼく)と釣り合おうなんて考えるなよ』」
「『僕は君に釣り合う男になれないし、なるつもりもないんだ』」

「『何をされても嫌がらない、どんなことをされても嫌わない。そういうのを変態っていうんだよ』」
「『このドMが』」
「『お前は自動愛情人形か』」
「『君のことは虐め尽くしてもう飽きたんだ。裸エプロンも見飽きたしね、今はご主人様じゃないよ』」
「なんの……こと? わたしは、わたしたちは」

「『君は僕の幼なじみで、ただのクラスメートで、道ばたで会った他人で、図書館で会った他人で、恋人で、転校生で、転校生で、患者仲間で、生徒会長同士で、転校生で、ご近所さんで、コンビニ店員で、同じ学校の生徒だったんだよ』」

「『君は問答無用で僕に惚れて、僕が虐めても虐めなくても君は壊れた』」
「『大嘘憑き(オールフィクション)で現実(すべて)を虚構(なかったこと)にしなかったら、君は瀕死か狂人か廃人か調教済みかぐちゃぐちゃどろどろの血まみれ垂れ流しか自殺志望者か障害だらけか欠損だらけか寝たきりのままだったじゃないか』」
「『君は僕に感謝すべきだ』」
「『反射も、咄嗟も、恐怖も、痛みも、寒気も、生理的嫌悪も、身体が動かないのも、防衛本能だ』」
「『普通(ノーマル)の身で乗り越えてはいけないんだよ』」
「『君は不死身なんかじゃないだろう』」

「どうして。私はただ禊くんが好きなだけなのに」
「『いいかげん嫌っちまえよ。好きになってくれた子を破滅させることしかできない最低な男だぜ』」
「いやだ。やだやだやだ」
「『それができないならまた忘れるんだ』」
「……嫌だ、けど、何回忘れてもきっと何回でも好きになるよ。ずっと好きだよ。」

「『……昔から君は僕を泣かせる苛めっ子だ、真珠ちゃん』」
「禊くん、禊くん。一生大好きだよ。」
「『じゃあ僕は生まれ変わっても嫌いだよ』」

君は何度も僕を忘れる。
思い出なんて"なかったこと"になる。
何度も「初めまして」「好きだよ」を言う。

ばいばい、またね。
いつか過負荷(ぼく)が普通(きみ)を壊さずに愛せる日まで。
かっこつけずに向き合える日まで。


【頂き物・イメージイラスト】

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