桜散る



この世に生まれ出て12年。
ここがテニプリ世界で自分が異世界トリップの転生者だと気付いて2年。
私は絶望の淵にいた。

「落ち、た」

掲示を何度も指で追い、
手元の受験票と一致する番号がないか確認したが、どうやら。
愕然として動けない私に、母が慰めの言葉をかける。

――残念だったね、氷帝はやっぱり難しいよ。幼稚舎を受けた子なんて1年生の頃から塾通いだもの。真珠はよく頑張ったね、凄いと思うよ、無駄にはならないよ。うちとしては公立に行ってくれたほうが経済的に助かるのよ。私立には私立の、公立には公立の良さがあるよ。高校受験っていう機会もあるからね。

ちがう。
受験失敗によってプライドを傷つけられたとか、将来進みたい道が閉ざされたとかじゃない。

氷帝の受験はたしかに難しかった。
私はいちおう大学生だったのだけど、中学受験の勉強って小学校の勉強とも中学の勉強とも違う。中学受験しなかったからさ!
「氷帝の受験勉強」は更に違う。知識も活用の仕方も未知だった。さすが中学校から第二外国語習うような学校は違うよね!
私は人生二周目だけど、一回習ったことだからって満点が取れるわけじゃない。
嫌いな教科とか、習ったけど忘れてることも、そもそも習ってないことだってある。

競争率も高い高い。幼稚舎からのお受験組は目の色が違う。
小学5年生からでは有名学習塾に入ることさえ敵わない。
うちの両親は教育に熱心とはいえず、私が土下座して願ってようやく中学受験を許可してくれたのだ。
常に特待生を目指すようにという条件だったが、特待生試験どころか一般試験まで落ちて笑えない!

せっかくテニプリ世界に来たのに! トリップ特典とか無いの? ねぇ無いの? ちょっと運命を頼りにしてたのに! 現実がシビアすぎて辛い! 思い上がってた自分が辛い!

地元の公立中学校はテニプリでは名前も出て来なかった学校である。
テニス部は弱く、2回戦に進めば喜ぶレベルらしい。

私は越前リョーマの二つ上の学年、跡部景吾と同い年である。
というのは、この二人をはじめ様々な選手が小学生の頃から大会で名を残しているので調べることができたのだ。

全力でオタクだった前世の記憶を思い出して早2年。
受験のために漫画も小説もゲームもインターネットもほぼ封印、
知ってる選手が出る小学生の大会を見に行くのも自重してたのに! この仕打ち!
自業自得? しかたないこと?
もう一回言う。現実がシビアすぎて辛い!

……と、ひとしきり吐き出して落ち込んで、ひとまず落ち着いた。
なってしまったものはなってしまったで、しかたない。どうしようもない。
地元の中学校の制服を仕立て、なんの部活に入るか考えたりする。
小学校の友達も好きなので、別れなくていいっていうのは嬉しい。喜んでもらえた。

しかし未練がましく氷帝の校舎周辺をうろうろしたりしてしまう。
中に入る勇気はさすがにない。警備員さんいたしね!
春休みだけど、幼稚舎組やテニス部に入るって決めてる生徒は練習してたりするんじゃないかな。
と思ってテニスコートが覗ける場所がないかと探したけど、無理だった。
氷帝の敷地広いもん。偵察とかされたら困るよね。
アポなしで待ち伏せする勇気はなかった。

「練習、頑張ってください」

敷地に向けて拝んで、名残惜しくもその場を去った。
氷帝生まじ羨ましい。氷帝生ってだけで羨ましい。

あいにく、青学を受験するっていう選択肢はなかった。
受験問題の傾向が違ったので、二兎追うものは一兎も得ずと思ったのだ。
青学にいて氷帝に接近フラグ立てるっていうのもなかなか難しいと思う。
邪で中途半端な気持ちでマネージャーになったらきっと続かない。

しかし! 落ち込んでばかりもいられない。
前世では「同じ世界にいるだけでフラグ」という名言もありました! マイナーカップリングとかで!
運命はあてにならないので待つのはやめて現実的に考えることにする。
大会の応援なら学校関係ない! 氷帝コールできる! する! 勝つのは氷帝! 応援するのは自由です!!
平部員だろうとレギュラーだろうと準レギュラーだろうと、地方大会だろうと全国大会だろうと近場だろうと辺境だろうと、日本ならばどこまでも!

あとはまぁ、普通に人生を楽しんでやろうじゃないか。




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