09.(午後)


「"シン・シュドルク"!」「"シン・ポルク"!」
「"シン・サイフォジオ"!」「"ミベルナ・シン・ミグロン"!」
「"シン・ライフォジオ"!」「"ジガディラス・ウル・ザケルガ"!!」

術として放たれるはずだった魔力が彼らの両手と呼気を通じて電池装置に吸収されていく。
その実力は私の予想を遥かに超えていた。
全員が"シン"級以上の術を使えるなんて、さすが元・王様候補だ。
現状では魔力を蓄える電池のほうが足りていないようだ。
この魔力は当分の作業に使わせていただく。
今後の方針を確認し合って、解散となった。

その後はゼオン様が城内を案内してくださることになった。
まず寝室……最初に案内されて荷物も置いてある部屋まで誘導してもらい、最低限の道具を持って、作業場となる闘技訓練場へ移動した。

元はゼオン様が皇子時代に訓練に使っていたそうで、石造りの広く頑丈そうな堂だった。
しばらくは私が占領して良くて、他の者は立ち入り禁止にしてくれるとのこと。しかもゼオン様も勝手には入らないと仰ってくれた。
熱は、近くの調理場の釜戸を借りるか、場内で釜戸を組むか。調理場も城内には複数あるそうなので、一時期なら貸し切りにできるそうだ。
ここでいいか確認を取られ、肯定した。毛布があれば寝泊まりもできそうだ。

作業に必要な荷物を運ぶことになったが、私としては作業場があれば寝室はいらないと思った。
こんな立派な部屋を借りたままにしておくのは恐縮だ。
それを伝えると、そういうわけにはいかないと言われた。

「今のところ貴様は客人だ。ガッシュの呪いを解くのに必要なら最善の環境を用意してやる。しっかり作業に励むため、休息もしっかり取れ。作業場で寝るのを禁じはしないが、休めるときは休め」
「わかりました」
「……昨日、ベッドを使わなかったのか?」

ゼオン様は最初に案内されたときのまま皺もつけていないベッドを見て言った。

「えっと、はい」
「どこで寝た」
「床で……」
「あわなかったのか?」
「いいえ! そんなことないです。ただ立派すぎるので汚すのが怖くて」
「今後は使え」

ゼオン様は淡々と指示なさるので異を唱えることもなく頷く。
それから、家から運んで来た荷物と用意してもらった材料を台車に載せて作業場へ運んだ。
運ぶ作業はアースさんも手伝ってくれた。
結界だけ張って、それから、ゼオン様に城の地下にある書庫へ案内してもらった。

「調べたいことがあるときはここを使え。王族の同伴がなければ入れんが、俺の都合がつく時間は付き合ってやる」

ここに王族にしか伝えられていない貴重な資料が収められている。
あまりゼオン様にご足労いただくわけにはいかないので、一度で必要な資料をひとしきり集めなくてはいけない。
と思うのだけど、その蔵書量に圧倒された。魔具師からすれば天国のような場所だ。
そわそわと蔵書を手に取って、これもこれも興味深い!と 目移りする。
本来なら私のような者には一生触れられない書物ばかりだ。
それだけ今回の件が重要ということである。
じっと見られる視線に気付いて、不安を覚えた。

「ゼオン様は、私をお疑いはならないのでしょうか」

利己的に見えていなかっただろうか。
疑われる要素はいくらでもある。
呪いに対し、解決策が見つかるタイミングは良すぎた。
疑われていないならいないで、わざわざ言わなくていいようなことを、つい零してしまったのは私の弱さだ。

「全て鵜呑みにしてるわけではないが、他に手立てがない。貴様が敵かどうかわからないうちは見張らせてもらう。不審な動きがあればすぐわかる」
「不審な動き……」
「案内した場所以外をうろついたりしなければいい」
「――わかりました」

それなら気をつければ大丈夫だ。
ゼオン様はガッシュ様を助けるための活動なら、最良の条件を提示してくれるのだ。

「無事にガッシュの封印を解いたときには恩人としてもてなそう」
「そんなの、いいです」
「報酬は望むのにか」

富と名誉は対で考えられるのか。当然かもしれない。
私は、できればひっそり生きていきたいのだけど、平穏ほど難しい。

「お金は……必要なので…………」

その日の作業を終え、与えられた部屋で休むことにした。
ベッドに入ってみると、信じられない柔らかさで、雲の上に乗っているようだった。
私の意識はあっけなく奪われ、心地よく幸福な眠りへと落ちた。



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