08.(昼下がり)


召使いさんに王様の執務室へと案内してもらって、中に入るとそこにいたのは王様とゼオン様とコルルちゃんだけじゃなかった。
見知らぬ5つの影があり、慌てて頭巾の裾を引っ張って顔を隠す。
それ以上進めずにいると、コルルちゃんが近づいてきてくれた。

「みんなガッシュの友達で味方だけど……呼んでもよかった?」

身を隠して生きることが掟としてしみついている。
けれど、今回のことでいくらか他の魔物と接点を持つことは覚悟していた。
忙しい王様とゼオン様にずっと仲介を頼むわけにはいかないし、召使いさんも頼る魔物を選ばなければいけない。
コルルちゃんだって"シン・ライフォジオ"の訓練もあるし、ずっとお城にいるわけにはいかないだろう。

帰り道の転送装置の調整と整備があるから、私も人間界に行くというのは確定だ。
人間界に行く魔物たちとはいずれ必ず顔を合わせることになるし、今後準備のための他の機会もあるかもしれない。
中心になってくれるのなら、顔合わせしておくのはよいこと……だと思う。

「あのね、一族のこと……私の素性は内緒にしてほしいの。口止めも……」
「ファウードの転送装置のことはいい?」
「うん。制作者の娘とだけ」

一族の術を応用したりもしているが、魔具は母が個人的に古代の技術を紐解いて使った物が多い。
コルルちゃんが王様にそれを伝えにいってくれ、緊張した笑みで彼・彼女らと向き合った。

顔合わせは、まず自己紹介から始まった。
紅髪の女の子はティオちゃん。黄色いくちばしのキャンチョメさん。王様から"ウマゴン"と呼ばれている、馬族のシュナイダーさん。背が高く銀髪のウォンレイさん。黒髪で頭に二本の小さな角があるレイラさん。王様の教育係兼法務官で金色の鎧を纏ったアースさん。
他にも力になってくれそうな魔物はいるが、現状で声をかけたのはすでに王様の症状を伝えていたこの5人らしい。

私は名前とコルルちゃんの友達であること、王様のためということ、母の研究、転送装置の説明、そしてこれらが極秘であることを伝えた。
アースさんによると人間界の治療には『手術』という身体を切り開いて内部を直すものがあるらしく、心臓付近でもきっと方法があるだろうとのことで、人間界に行けば封印を解けることが見込まれた。

私が彼らに願ったのは情報の守秘と材料集めの協力、そして魔力の提供だ。
人間界に行くときには莫大なエネルギーが必要だが、それ以前、転送装置を作るのに母の遺した道具を使ったり、装置に混ぜ込んだりする分も魔力も必要だ。
私の魔力はそれほど多くないので、一人で作ると一日の作業量が限られていた。
協力してもらえるのなら私の負担は格段に減る。

みなさんには術を使う以外に魔力を放出してそれを活用することができるのかと驚かれた。
私たちの一族は魔力も筋力も弱いので、外部の物を道具として補助に使うことが多い。
呪術分野で魔力の奪取はよく研究されている。
魔力を物質に貯めるという手法では、王様に施した例の封印術が完成形の一つであると言える。
あの珠ほどの密度ではなく、また、後から魔力を取り出しやすい程度の仕組みの閉じ込め装置――人間界ではエネルギーを溜めておく"電池"というのがあるそうだから、魔力電池とでも言おうか――が、ある。
まだ試作品で、精度も量も転送装置には全然足りない。
だから使用魔力をもらうと共に、魔力電池の精度に関する実験にも役立てさせてほしいのだ。

材料採集のために一族の秘密の場所を教えるわけにはいかないので、それは私が取ってくるか、買える物は買って、別の場所で採れる物はそうしてもらう。
私は他の作業もあるので、協力は10日に1度ほどでかまわない。後は交代で王様の身辺警護を強化するとのことだ。
王様は今のところ術と魔法のマントが使えない以外は元気だが、魔力を完全に奪われた魔物がどうなるかというのは前例のないことだ。
老いが始まらずとも、体中に漲る魔力が魔物の体を丈夫にしているから、それがなくなってどうなるかはわからない。
王様の症状はまだ公にしていないし、弱体化したところを狙うのが敵の狙いかもしれない。
呪いを依頼した張本人でなくとも王様の現状を知れば付け入ろうとする輩が出てくるかもしれない。
彼らには彼らの日常の勉強や業務があり、装置の完成まで長期戦となるだろう。

王様には対しては追加の材料と資料の閲覧、そして場所の提供を願った。
作業が大掛かりになるので場所が必要なのだ。
煮詰めたり組み上げたり繋ぎ合わせたり削ったり嵌め込んだり。装置の完成品自体も大きくなる予定だ。
ファウードに搭載されていた転送装置も運んで分解する。
理論の部分もまだ完璧ではないが、進められる作業もあるし、実験と並行したい。
釜戸があり、熱を使ってよくて広く頑丈で、秘密を守れる場所があるとよい。
すると東の宮にある闘技訓練場を開放してくださるとのことだった。
入ってほしくない場所・触ってほしくないものに結界を張る許可も得た。

非公式の場ということもあるのかもしれないけれど、私以外に王様を王様と呼んでいる魔物はおらず、王様も"ガッシュ"でいいとおっしゃるので、今後は「ガッシュ様」とお呼びすることにした。


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